【人工知能はいま 専門家に学ぶ】(5)情報幾何学の創始者、甘利俊一氏が見るAIの世界 (4/6ページ)

2016.5.29 07:00

工学博士理化学研究所脳科学総合研究センター脳数理研究チーム特別顧問・チームリーダー東京大学名誉教授の甘利俊一氏

工学博士理化学研究所脳科学総合研究センター脳数理研究チーム特別顧問・チームリーダー東京大学名誉教授の甘利俊一氏【拡大】

 ポストディクションとはプレディクションからの造語である。まだ辞書には載っていないが、「後付け再構成」と日本語訳されることがある。感覚知覚系の非常に短い時間スケールでの反応から意識レベルの大きい時間スケールにおいてもポストディクションが起きているという。ポストディクションの例として、選択盲があり、次のような実験がある。男性に二人の女性の顔写真を見せ、好みの女性の写真を選ばせる。写真を返してもらい、男性の目の前で男性に分からないように写真をすり替え、選んでない方の女性の写真を見せて、なぜこの女性が好みなのかを質問する。そうすると、多くの男性は、今見ている写真の女性(選ばなかった方の女性)の魅力(選んだ理由)を語ったり、矛盾を無視して最初に選んだ女性の魅力を語るのだ。好みの女性の写真を選ぶ、写真を返す、自分が選んだ写真(実はすり替えられた写真)を見せられる、選んだ理由を質問される、この一連のプロセスに疑いを抱いていないため、最初に選んだ女性のイメージの上に目の前にある写真の女性イメージを上書きして、再構成しているのである。脳の整合性を担保しようとするメカニズムに起因するというような話もあるが、いずれにせよ、意志決定機能は結構曖昧なものらしい。

「それとも関連するのですが、自由意志について、自由意志自体の議論は哲学的な解釈も絡んでくるので難しい話なのですが、1980年代にアメリカの神経生理学者であるリベットが実験をしているのです。実験内容は、被験者に時計の針を見てもらって、任意のタイミングでボタンを押してもらうのですが、押そうと思った時と押した時の針の位置を計測するものです。その時の手の運動や、脳活動の電位変化も計測します。その結果分かったことは、ボタンを押そうと意識するよりも先に脳が押すことを決めていたのです」

 自由意志とは、哲学の概念や定義は難しいので、直観的に言うと、自分の行動や判断は自分の意志で自由に自発的に決めることが出来る、という当たり前のことである。その当然と考えられていたことを、ベンジャミン・リベットが実験で反証したのである。頭や心の中で「ボタンを押そう」という意志が生まれる前に、既に脳神経活動が起こっていて、ボタンを押す準備をしているというのだ。ただし、この実験結果の解釈は様々にされていて、未だに結論には至っていない。

「このリベットの実験結果とポストディクション仮説から…」