【人工知能はいま 専門家に学ぶ】(5)情報幾何学の創始者、甘利俊一氏が見るAIの世界 (5/6ページ)

2016.5.29 07:00

工学博士理化学研究所脳科学総合研究センター脳数理研究チーム特別顧問・チームリーダー東京大学名誉教授の甘利俊一氏

工学博士理化学研究所脳科学総合研究センター脳数理研究チーム特別顧問・チームリーダー東京大学名誉教授の甘利俊一氏【拡大】

「このリベットの実験結果とポストディクション仮説から、新しい人工知能のモデルを作ることができるんじゃないかと思っているのです。比較的単純な行動時の処理として意識するより前に脳が判断を下すモデルと、意識と脳が行ったり来たりして複雑な処理をするモデルを作って、組み合わせるのです。それで、このモデルを実現するには、論理的推論をベースにした人工知能研究とニューラルネットワークをベースにした人工知能研究の両方が必要だと考えていまして、これまで競い合っていた二つの人工知能研究をここで集約することが出来るのではないかと思っているのです。僕の今の興味はここなんです」

 不思議な感覚に襲われる。80歳の人間が人工知能という最先端の研究分野で、仮説を構築して、それを解き明かすことに興味を持っている、すごいとかそういうのよりも、とにかく不思議だと思った。話を聞いている時、何度かそういう感覚に襲われ、甘利からするとぼーっとしているように見えたのかもしれない、「話を続けて良いですか?」と確認され、我に返ることもあった。

 また、甘利は、脳科学についてより広い視野で研究する必要性を説く。脳は、生物の器官であるから生物科学、脳の機能は情報処理、人の精神活動、心理や意識等を考えるのは人間科学が研究対象としている。それぞれの研究はもちろん重要だが、脳科学は、これら生物科学、情報科学、人間科学を総合した新しい科学として研究する必要があるというのだ。確かに、上記の甘利の興味対象をみても、すべての要素が入っている。

 続いて、人工知能が社会に及ぼす影響について質問をした。

「技術的特異点、2045年でしたっけ?自らを進化させられる人工知能ができる、が話題になることがありますが、これまでだって人類はいろんなものを発明してきて、それらを全部上手く使いこなしてきているのです。だから、人工知能についても同様に人間は使いこなしながら成長していくのだと思うのです。ですが、問題は、社会システムです。現在の社会もとても良いとは思えませんが、今後、人工知能を始めとした様々な技術がさらに発展していくなかで、価値観も変わっていくなかで、社会や文化をどのように変化、適応させ、健全な社会を創っていくのかをきちんと考える必要があると思います。技術が社会的影響力を増していくことは間違いないのですから」

 確かに、世界レベルで社会秩序の維持のほうが喫緊な課題だと思う。

 社会システムの変化に多大なる影響を及ぼしているインターネットは、振り返れば、世界に瞬く間に浸透し、今やインターネットのない世界を想像することすら難しいような状況になっているが、人工知能は今後どのように普及していくのだろうか?

「インターネットのように、ユーザーが直接認識できるレベルで、人工知能がどんどん普及していくとは考えていません。いろんなサービスだとか製品の中に人工知能技術が入り込んで、徐々に浸透していくものだと思っています」

「理化学研究所のAIPセンターには、人工知能を広くカバーするのではなく…」