【人工知能はいま 専門家に学ぶ】(8)会話情報学の第一人者、西田豊明氏が見るAIの世界 (2/5ページ)

2016.7.10 07:00

工学博士、京都大学教授の西田豊明氏

工学博士、京都大学教授の西田豊明氏【拡大】

「ロボカー(自動運転)は、もっと難しい。精選された人工的なルールで定義された囲碁の世界と異なり、我々が生きている空間は、例外だらけで,かなり無秩序であり、それをコンピュータにわかりやすく明快に語れそうにはありません。さらに、人間は意識せずに当たり前にやっていることも沢山あります。ハンドルの操作や注意の配り方は少し運転経験を積めば、我々は特に意識せずに行えますが、初心者には難しいですね。視覚とか聴覚といった知覚については、人とコンピュータの間でこれまで大きなギャップがありました。人間は特に意識しなくても見たり、聞いたり出来ますが、コンピュータにはそうしたことがこれまでなかなかできませんでした。一方、ふつう自動車教習所で学べば、大方の人は運転できるようになります。これは、運転技術が手に負える数のパターンに集約されていることを示唆しますが、そうであれば、いまの人工知能にもその技術を実現できるチャンスがあるということになります。パターンを含んだデータをたくさん集めて機械学習にかけることで、いまの人工知能でかなり高いパフォーマンスが期待できるようになりました」

 ロボカーという呼び方は初めて聞いたのだが、西田は自動運転よりもロボカーという名称のほうがしっくりくるし、多くの夢を含んでいると言う。

「もっと難しいのは秘書ソフト。これは、昔から言われているが未だに出来ていない。例えば、iPhoneに搭載されているSiriでは、ちょっと難しい質問をすると検索エンジンに投げてしまいますので、秘書機能を実装しているとはとても言えません。秘書機能の中のスケジュール管理だけを取り出してみても、人工知能でうまく実現することは当分出来ないと思います。ちょっと考えてみれば分かるのですが、スケジュール調整する時は、相当複雑な意思決定を行っています。そもそも人間に頼んだ場合でも、こちらの思った通りにならないことも多々ありますから、正解データを集めるのも大変です」

 開発競争が激しさを増しているロボカーについてもう少し深く聞いてみた。

「ロボカーの課題は主に二つあると思っています。一つは責任問題。事故が起こった場合、誰が責任を取るのかを明確化する必要があります。人間の強みは責任を取れること、もしくは責任を取れると信じられていることです。それが安心感に繋がっていたりします。たとえ技術的には可能でも、ロボットが操縦する飛行機に乗るのは抵抗があります。これは、かなり多くの人工知能の実装に関わる問題だと思いますが、ロボカー以外ではこれを見逃した議論がされている場合が多いですね」

 責任問題と表裏一体で人間と人工知能間の信頼関係の構築が重要なテーマとしてある。これは実績を積み重ねていくことで、時間が解決するのだろう。

「もう一つは、運転の隅々に至るまでは、価値あるデータが得られていないことです」