「切ないエッチシーン満載」乙女ゲームのキャラが野獣に?! 漫画家が怒りの提訴

 
恋愛を疑似体験できる人気の「乙女ゲーム」に描いたイケメンキャラが、いつの間にか18禁〝エロゲー〟で一糸まとわぬ獣のような姿に…。怒った女性マンガ家はゲーム提供会社の提訴に踏み切った

【衝撃事件の核心】

 ヒロインの前に現れるのは、そろいもそろってイケメンばかり。すれ違いや衝突を経ながら、次から次へ恋の花が咲く。現実にはありそうもないシチュエーションを疑似体験できるこの手のゲームは「乙女ゲーム」と呼ばれ、渇いた女性らの癒やしツールとして絶大な支持を集める。ヒットの鍵を握るのは、言うまでもなくキャラクターのイケメン度合い。このため、ゲームイラストの出来が売り上げを大きく左右する。そんな乙女ゲーム界で有名なマンガ家はある日、ネット上で驚愕(きょうがく)の事実を知る。自分がファンタジー用に描いたイケメンたちが、18禁の“エロゲー”であられもない姿に改変されていたというのだ。怒り心頭のマンガ家は、ゲーム提供会社に損害賠償を求めて提訴した。人気ジャンルの舞台裏で何があったのか。

 人魚姫とイケメン王子

 訴訟記録によると、訴えたのはゲーム作品の原画も手がける女性マンガ家Aさん。平成21年ごろから活動しており、ペンネームをネット上で検索すると複数作品がヒットする、その世界ではよく知られた存在だ。

 Aさんは25年6月、ゲームの企画・開発を行う東京の制作会社から、携帯型ゲーム機「プレイステーション・ポータブル」(PSP)用の新作乙女ゲームに使うイラストの依頼を受けた。

 ゲームはアンデルセン童話「人魚姫」がベース。ヒロインである人魚の少女が人間の姿になって人間界を訪れ、7人の男性のいずれか(ゲーム展開により異なる)と恋に落ちるという内容。女性対象の恋愛シミュレーションゲームで「ファンタジーもの」と説明され、Aさんも契約に合意した。

 納期までに完成させたのは、ゲームソフトのパッケージジャケット絵2点▽登場人物10人ほどの立ち絵(制服、私服の各2点を3ポーズずつ)▽ゲームの進行によって各場面で挿入されるイベント画約100点▽コミック(ゲームソフトの付録)36点-など。このほか原画作家としてのインタビュー協力なども契約に含まれた。報酬は350万円だった。

 出来上がったゲームのパッケージイラストでは、7人の男たちがヒロインを取り囲む。王子に医師、海賊と魔法使い、金髪、銀髪、ロング、巻き毛と個性もさまざまだ。タイプの違うさまざまなイケメンたちとこれからどんな物語が始まるのか、手にした人はさぞ胸を躍らせたに違いない。

 一糸まとわぬ“野獣”に

 ゲームは26年11月に予定通り、この制作会社が展開するゲームブランドの1タイトルとして発売された。同ブランドはこれまでも多くのソフトを世に送り出しており、人魚姫のゲームもたちまち話題となる。

 「とてもスチル(静止画)がきれい」

 「男性キャラクターたちみんなの表情がセクシーですてき」

 ネット上には感想が次々書き込まれた。原画作者としてクレジットされたAさんの実力が、ヒットの大きな要因となったのは間違いない。

 だが「人魚の冒険」はここで終わらなかった。

 翌年の夏、Aさんは制作会社から「ゲームのソーシャル化につきまして」と題する1通のメールを受け取った。今回のゲームをPSPからスマートフォン向けオンラインゲームとして改めて配信する、という。

 当初の契約でも、ゲームがPSP以外の媒体に移植される可能性があることは明記されていた。このためAさんは特に異議を唱えることもなく、申し出を受け入れた。

 それから、しばらくたって、Aさんは妙なうわさを耳にした。

 「人魚姫のゲームのアダルト版が存在する」

 探してみると、大手ゲーム配信サイト内の「R18オンラインゲーム」カテゴリーに、それはあった。試しにプレーしてみると、そこでは自分が生み出したあのイケメンたちが、一糸まとわぬ姿に変わっていた。

 「アイコラ」の手口

 基本的なストーリーと登場人物はPSP版のままだが、ヒロインが相手と恋愛関係になると、最初のゲームには一切なかった露骨な性交シーンに移行するようになっていた。

 大胸筋や6パックの腹筋もあらわに、裸のヒロインを押し倒す獣のようなイケメンたち。Aさんが描いてもいないイラストが、なぜか差し込まれていた。

 手口は単純だ。制作会社はAさんが描いたキャラクターの顔部分はそのまま生かし、首から下の着衣部分をソフトを使って削除。新たに用意した裸のイラストと組み合わせたり、キャラクターの顔部分だけを反転させたりして、性交シーンを作り出していた。アイドルの顔写真に裸体をつぎはぎする、あの「アイコラ」と同じ手法だ。

 事情を知らないファンからすれば、PSP版のいわゆるエロゲーがこのオンラインゲームであり、Aさんはエロゲーの原画も請け負っていたと考えてしまうだろう。

 契約時、イラストに背景や小物が描き込まれることや、着色されることは知らされていたが、それ以上の改変があるとは聞かされていなかった。まして自分の生み出したキャラクターが勝手に「性交」するなど想像さえしていなかった。

 裁判所「極めて悪質な改変行為」

 提訴に先立ち、Aさんは大手配信サイト内で当該エロゲーの提供元として表示される会社(東京都港区)に問い合わせた。

 すると、この会社は、原画の著作権は制作会社にあると聞いており、こちらに責任はない、との回答を寄越してきた。

 著作物は作者にとっては自分の分身、わが子も同然。それをめちゃくちゃに扱われたことに怒ったAさんは、この提供会社に600万円の損害賠償を求めて大阪地裁に訴訟を起こした。代理人弁護士によると、制作会社の責任も追及するつもりだったが、そのときはすでに倒産しており、断念したという。

 Aさんは訴訟で「提供会社の著作物取り扱いに関する無神経さ、鈍感さは、単なる注意義務違反にとどまるものではなく、業務として著作物を取り扱う事業者としてみれば、故意ともいえる重大な注意義務違反だ」と批判。今回のようなイラストの改変は「原告のキャリアに傷をつけ、ファンに失望、誤解を生じさせ、今後の創作活動に重大な悪影響を及ぼす。精神的苦痛は計り知れない」と訴えた。

 一方の提供会社は代理人さえ立てず、口頭弁論期日に一度も出廷しなかったほか、書面の提出もなかった。このため裁判所はAさんの主張を全面的に認め、4月の判決では「漫画家の創作意図や目的を著しくゆがめ、作家としての原告の信用を大きく毀損する、極めて悪質な改変行為だ」として、提供会社に請求全額の賠償命令が出された。

 市場拡大、モラル追いつかず

 矢野経済研究所(東京都中野区)が発表した「『オタク』市場に関する調査結果」によると、26年度の恋愛(乙女)ゲーム市場は137億円に上る。

 ゲームなどに詳しいデジタルハリウッド大学客員教授の梅本克氏によると、男性向けの美少女・アダルトゲーム市場は縮小傾向にあるが、女性向けゲームは種類が増え、市場が拡大しているという。

 今回のような乙女ゲームのほか、男性同士の恋愛を描くボーイズラブ(BL)ゲーム、さらに男性アイドルを育成するジャンルも急激に人気を伸ばしている。背景にはスマホで気軽にゲームができるようになった環境の変化がある。

 ただ、オンラインゲーム特有の問題として、梅本氏は「レイティングシステムが確立されていない」と指摘する。レイティングとは一定の基準で対象作品の年齢制限などを決めること。「18禁とは銘打っていてもチェック機能が十分ではなく、著作権保護もしっかりしているとは言い難い」と警鐘を鳴らす。今後も同様の問題が起きる可能性があるという。

 当該ゲームはすでに配信が停止されているが、ネット上には今も宣伝用のキャッチコピーが残る。

 「切ないエッチシーンが満載で大人の女性の恋心をくすぐります」

 切ないのは勝手に“野獣化”されてしまったイケメンたちだろう。

 ただ男性ユーザーと違って、女性は露骨な性描写をあまり好まない傾向があるとされる。当該ゲームがどこまで売れたのかは定かではない。