世界最薄の1ミリ シチズン、引き算の美学で「究極の時計」追求

 
シチズンが開発したムーブメント1ミリ以下の「エコ・ドライブワン」=5日、東京都西東京市(荻窪佳撮影)

 GPS(衛星利用測位システム)機能を搭載したり、スマートフォンと連携して時刻を修正したりするなど、時計の技術はまさに刻一刻と進化し続けている。持ち主の心拍測定までできる「スマートウオッチ」も台頭する中、シチズン時計は今秋、機能やデザインを可能な限り簡素化した“究極の時計”を世に送り出した。ムーブメント(駆動部分)厚1ミリ、ケース厚2.98ミリの世界最薄のアナログ式光発電腕時計「エコ・ドライブワン」だ。時計の常識を打ち破るスリムなボディーには、繊細な技術と「世界初」にこだわる大志がこめられている。

 「時計の本質を見直し、すべてをそぎ落としたシンプルで薄く美しい時計に挑戦しよう」

 戸倉敏夫社長の号令を受け、シチズンがエコ・ドライブワンの開発に動き出したのは平成26年夏だった。

 シチズンは昭和51年、世界で初めて太陽光で発電し、電池交換不要のアナログ式腕時計を発売。平成7年から「エコ・ドライブ」の名で展開し、環境に優しい腕時計として世界中に広まった。

 エコ・ドライブワンは、アナログ式光発電腕時計の40周年モデルとして企画された商品。それだけに開発、企画部門の社員の士気はいつになく高まった。目指したのは「引き算の美しさ」だ。

 「時計にたくさんの機能を搭載していくと、どうしても大きく厚くなってしまう。それとは逆に、着け心地や使いやすさを追求した研ぎ済まれた時計を作ろうと考えました」

 そう語るのは時計開発部設計課の今村和也さんだ。

 アナログ式光発電腕時計では、シチズンが14年に発売したモデル「スティレット」のムーブメント厚1.91ミリが世界最薄とされていた。エコ・ドライブワンは、この約半分の薄さを実現した。

 一見、何の変哲もない時計だが、時計につきものの時刻を示す文字や秒針は省かれている。装着してみると、手首にフィットして軽い。時刻を見ないときはワイシャツの袖の中にすっぽりと隠れるほどの薄さで、仕事の邪魔にならない。

 しかし、わずか1ミリのムーブメントの中に、時計を動かすのに必要な85個の部品を収めるのは容易ではなかった。81個の部品の設計を根本から見直すことを迫られた。

 中でも重要な部品が、永久磁石と歯車を組み合わせ、時計の針を動かす「心臓部」に相当するローターだ。

 従来サイズは厚さ1.47ミリで1ミリのスペースからはみ出してしまう。これを0.96ミリまで薄くするために、磁石と歯車を結ぶ「座」と呼ばれる金属部品を使わず、レーザー溶接で固定する斬新な技法を編み出した。

 厚さ1ミリ以下のものが存在しなかった2次電池も、電池メーカーの日立マクセルとの共同開発で0.9ミリにまで縮小。このほか、時計を動かすのに欠かせないコイルについても芯は厚さ0.3ミリ、巻線は0.017ミリの極細サイズにするなどの工夫を凝らした。

 薄型化が実現しても喜んでばかりはいられない。「薄くなると水圧に弱くなり、水にぬれると形がたわみやすくなるといったデメリットが生じる」(今村さん)からだ。

 このため、ガラスを囲むベゼルや裏ぶたに「バインダレス超硬合金」「サーメット」という強度に優れた新素材を採用して外装を頑丈にした。薄さとたくましさを兼ね備えた「オンリーワン」の時計が生まれた。

 人間でいえば、40歳はいい大人だが、いろいろなことに挑戦もできる年齢だ。エコ・ドライブも成長を続けていく。(宇野貴文)

■エコ・ドライブワン

 シチズン時計が開発した世界最薄のアナログ式光発電腕時計。ワンには、ムーブメント厚1ミリを実現した思いが込められている。フル充電すれば光がなくても1年間動く。希望小売価格(税別)はステンレスをバンドに使った3モデルが30万円、ワニ革バンドの800本限定モデルが70万円。

■シチズン時計

 宝飾品販売の田中貴金属ジュエリー創業者でもある山崎亀吉が大正7年に「尚工舎時計研究所」として創業。13年、「市民に親しまれるように」との思いから「シチズン(市民)」の名前で懐中時計を発売した。昭和5年、ブランド名から社名をとって会社組織「シチズン時計」を設立。平成19年に社名を「シチズンホールディングス」に変更したが、今年10月に「シチズン時計」に戻した。「エクシード」「アテッサ」「クロスシー」などの腕時計ブランドを展開。売上高は3482億円(連結、平成28年3月期)、従業員数は1万7046人(連結、28年3月末)。