それでも通ってしまうけど… 急速に店舗を増やす「やよい軒」の唯一の欠点

提供:PRESIDENT Online

 木村和久の「プロオヤジ宣言」。第4回のテーマは「定食屋」です。老舗の大戸屋が「お家騒動」で揺れるなかで、新興のやよい軒が急速に店舗数を増やしています。木村さんもやよい軒によく立ち寄るそうですが、都内某店にはある課題があるといいます--。

 「外食で内食」という原点回帰

 おやじの生活必須アイテム、定食屋のお話です。もともと戦後、白いゴハンに味噌汁、おかず数品を食べさせる定食屋は、どこにでもありました。阿佐田哲也原作の映画「麻雀放浪記」(1984年)には、徹マン明けの坊や哲とドサ健が、闇市の定食屋で、銀シャリを食べるシーンが出てきます。昭和30年代までは、日常の風景だったのです。焼け跡バラックの定食屋から、街の中へ進出して発展したのが「食堂」です。これは蕎麦屋を兼ねていたり、ラーメンが出たり、かつ丼やハンバーグ定食もある、当時のファミレス的存在でした。

 1980年代後半、喜多方ラーメンがブームになり始めのとき、現地へ赴きました。ラーメン専門店もありましたが、地元で愛されている食堂として、喜多方ラーメンも出すし、定食類や丼物も出す形態が多かったのです。喜多方ラーメンを一躍全国区にしたのは、連日団体客が大型バスでやってくる伝説の店、「まこと食堂」(福島県喜多方市)です。今はわかりませんが、当時は多彩なメニューがありました。多分日本一クラス、有名な食堂じゃないですか。

 というわけで、昭和あたりまでは、定食屋&食堂はわりとポピュラーな存在でした。ところがファミリーレストランのブームが起きて、ハンバーグだ、ナポリタンだ、ドリアだ、鉄火丼に、ドリンクバーと来たもんだから、定食&食堂は外食文化の表舞台から消えてしまったのです。ファミレスブームの後は、外食チェーンのオンパレード。牛丼、回転寿司、ファーストフードと続き、もう何がなんだか状態です。

 そしてここ10年、リーマンショック以降ですか。ふと気付くと定食屋が復活し、結構な賑わいを見せているではないですか。おそらく日本国民が、家で食べる食事を、外でも食べたいと思い始めたのでしょう。つまり「外食で内食を食べたい」という、食の原点回帰が起きたのです。

 今回は2大定食屋チェーン「大戸屋」と「やよい軒」を軸に、定食文化を考えてみます。

 まずは大戸屋。歴史は古くて1958年のオープンです。1992年、吉祥寺店が火事で焼け、建て直しのときにオシャレ路線を試したら、これがヒット。気づくとドリンクバーも完備し、都市型の駐車場のないファミレスみたいな存在になりました。現在は国内で350店(2017年4月)。2001年に東証ジャスダックに「大戸屋ホールディングス」として上場しており、立派な企業として成長しています。

 ウリは自動かつお節削りマシン

 2015年に創業家の三森久実会長が亡くなってからは、お家騒動が勃発。ちょっとイメージが悪くなっています。三森会長は以前、村上龍の経済番組「カンブリア宮殿」に出演し、「自動かつお節削りマシン」を各店に導入し、「削りたての鰹本枯節」を常に提供できると自慢していました。だから私がいつも頼むのは、「四元豚とたっぷり野菜の蒸し鍋定食」(税込み887円)で、ポン酢タレに、香りの良い鰹本枯節をまぶして食べます。この鰹本枯節が出なくなったら、三森路線が変更されたと理解しましょう。いつまでも残っていて欲しい、逸品です。

 定食類は、800~900円台のメニューが中心です。最近は牛タン定食など1000円を越える商品も出して、プチレストラン化を進めています。 ごはんのおかわりはできませんが、あらかじめ大盛りを頼めば、無料で対応してくれます。そういう意味では、じゅうぶん腹一杯になります。

 ただひとり客の場合、混んでいると、中央の大テーブル(一部店舗、六本木店はあり)に誘導されがちで、それが嫌という人もいます。なんかシェアハウスの夕食みたいで。しかも、恋も何も芽生えずって、当たり前だっちゅうの。この大テーブルがなかったら、ほんとレストランです。つまり大テーブルこそが、定食屋、大戸屋のアイデンティティーなんですね。

 一方、後発の「やよい軒」は、使い勝手の良さと、値段で勝負です。運営元は東証1部上場企業のプレナスで、持ち帰り弁当の「ほっともっと」の運営元でもあります。正式な1号店は2004年でしたが、10年ばかりの間に、店舗は300件越え(2017年4月現在で333店)。さすが上場企業、馬力が違いますね。

 やよい軒は、入り口の自販機で食券を買う方式で、人件費を浮かせています。慣れたから、それで満足ですが、最初は何を頼んでいいやら悩みました。メニューの書かれたタッチ画面は、幾層にもなっていて、目当ての料理が探しづらい。混んでいるときに、せかされるのが一番嫌ですね。

 席は2人用が多いです。壁側や窓側に配置してある、カウンターへの誘導はまずないです。基本的に「お好きな席へどうぞ」。これが非常に良いのです。2人用は対座式だから、余計な荷物を、向かいの座席に置けて、何かと便利です。

 白眉は「生姜焼き定食」

 チケットを渡すと、早めに料理が出てくるのが良心的です。当然、料理はお値段以上のもので、大満足です。白眉は「生姜焼き定食」630円(税込み)。この生姜焼きは、肉以上にキャベツも多い。そして、なぜかマヨネーズが、ちょこっと付いており、それを肉とキャベツに混ぜて食べると、幾らでもご飯が進みます。やよい軒のごはんは、大きなジャーがセンターにあって、食べ放題。これは学食以上のコスパがあると見ました。

 2番目によく頼むのが、690円の「肉野菜炒め定食」です。これも、ごく普通の肉野菜であることが、非常に嬉しい。野菜炒めは体に良い印象があって、ついつい頼んでしまいがち。ほかにステーキやかつ丼などのメニューもあり、かなり豊富で、しかも、料金的には大戸屋より、100~200円ぐらい安い印象があります。

 断然やよい軒が好きと思っていましたが、最近通っている、都内の某店で、唯一の欠点に悩んでいます。

 それでも通ってしまう魅力

 それはお茶を飲む、湯のみ茶碗に、茶渋がついていることです。やよい軒は、お茶はセルフサービスで、ほうじ茶を好きなだけ飲めます。どれどれと、でかい湯のみ茶碗を取りだすと、はっきりと湯のみ茶碗の内側に、茶渋がついているではないですか。ほかの茶碗にしようと、また茶碗を取りだすと、次の茶碗にも茶渋が。これは、茶渋がついていることが、当たり前なのか?

 一度従業員を呼んでみたら、「申し訳ありません」といって、内側が白い茶碗をくれました。そうだよなあ、これが正しい、サービスってもんだ。

 そして後日、行ってみると茶渋が、またついているではないか。全然直ってないじゃん。また従業員を呼んで指摘します。また「すいません」と言って、汚れた茶碗を洗いだす。

 そしてまたって。諸葛孔明が「三顧の礼」と言って、3回頭を下げられて、迎え入れられたが、やよい軒においては、「六顧の礼」まで試みました。そして、根負けしたのは、なんと私の方だった。5回目に副主任ぐらいの男性がやって来て、「いつも、ご指摘ありがとうございます」みたいな、大人の対応をしてきた。もう大丈夫だろ、正社員が情報を把握したのだから。安心しきって、また行くと、これまた茶渋が。これは志村けんのコントか? いや~もう、こいつらに何言ってもダメじゃん。諸葛孔明没後、2000年経って、「三顧の礼」を破る記録を打ち立てるとは、「日経電子のばぁ~ん」もびっくりだよね。後世に残る、名勝負だったす。

 結局、それでもやよい軒に通ってしまう自分がいます。真の意味での定食屋とは、湯飲み茶碗に茶渋がついているものだと、教えられた気がしました。綺麗ごとを言ってた、オレが生意気だったっす。

 今後は、茶渋を薬だと思って飲みますって、ほんまかいな~。

 (コラムニスト 木村 和久)

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