美女に手を引かれ洞窟探検、建築現場で落下する恐怖を体験 没入感高めるVR技術が登場

 
東京ビッグサイトに居ながら女性に手を引かれて洞窟を抜け2人で海を見られる「VRPrivateTour」

 居ながらにして遠くにある場所、現実にはない場所へと行くことができるVR(仮想現実)。360度の視界を覆う映像だけでも相当の没入感を得られるが、そこに自分自身の動作が加わることで、仮想空間へと入り込んだ気持ちが一段と高まる。人間の動作や感覚と、仮想空間での出来事をどうマッチングさせるかでさまざまな技術が生まれ、それらを使って新しいVRやサービスが生まれようとしている。

 幅広のベルトコンベヤに似た大型の装置の上に乗る。VRヘッドマウントディスプレーを装着し、差し出されるように装置から伸びている手を自分の手で握る。映像が始まると、洞窟の方へと向かおうとする女性が現れ、その手を自分が握っていることに気付く。女性が歩き出すと、足下のコンベアが後方へと流れ始めるため、乗っている自分は前へと足を踏み出して、歩く女性に引っ張られていく。

 大手CM制作会社のAOI Pro.(東京都品川区)が、6月に東京ビッグサイトで開かれた展示会、コンテンツ東京2017に出展していた「VR Private Tour」という装置。筑波大学システム情報系の岩田洋夫教授が手掛けた歩行装置「トーラストレッドミルmini」を借り受け、VR空間の中で実際に足を踏み出して進んでいけるようにしたものだ。

 洞窟の中に入ると、奥の方から風が吹いてくる。前を行く女性からは、ほのかな香りが漂ってくる。風は、前方に取り付けられた送風機が映像に連動して動作する。香りは、VRヘッドマウントディスプレーに取り付けられた、香りを発生させるデバイス「VAQSO VR」から出ている。洞窟を抜けて海岸に出た時に、手を引いていた女性が自分の横に位置を移す場面では、握っていたロボットアームが横にスライドして女性の動きを再現する。

 視覚だけでなく、歩く動作や香りなど、さまざまな感覚を組み合わせて発生させることで、体験者が発生させる感情や反応も、より現実のものに近くなる。こうした感情は、体験者の体に取り付けられたセンサーから読み取れる。FOVE製のVRヘッドマウントディスプレーからは、視線トラッキングの機能を使って、何を見ていたかも記録できる。AOI Pro.によれば、こうした環境を作り上げることで、より緻密なマーケティングデータの収集、より効果的なプロモーションの実現などに繋げられるという。

 3DCGビジュアルやVRコンテンツの制作を手掛けるビーライズ(広島市中央区)も、歩きの要素をVRの世界で再現する技術を提案していた。VRヘッドマウントディスプレーを装着した上で台の上に乗り、下から伸びた箱に腿を添えて足踏みをすると、センサーが反応してVR世界の中にいる自分も部屋の中を前に進んでいく。台の上で左右へと進む向きを変えることも可能。デモンストレーションでは、マンションの室内を歩いて回るコンテンツが使われていたが、ファンタジーのような架空の世界を、どこまでも自由に進んで行けるコンテンツも作れそうだ。

 FOVEを使ったサービスでは、コンテンツ東京2017に出展していた南国ソフト(東京都目黒区)が見せていた「The Outer Foxes」もユニークだ。VRヘッドマウントディスプレーを装着して現れる空間内で、チェスのように駒を動かすゲームを楽しむものだが、向かい側に現れる対戦相手となるキャラクターの視線が、実は別室にいるプレーヤーの視線と連動している。自分の視線も相手から見える対戦キャラクターの視線と連動している。

 駒には相手に取られたら負けのものと、取らせたら勝ちのものが半分ずつあって、動かす時に見て考えてしまう。そうした視線をお互いに読み合って、駒の属性を見極めることが勝利につながる。自分の視線を操作することで、相手に駒の属性を誤解させるようなプレーも可能。ギャンブルでもゲームでも、相手の視線を読んでの心理的な駆け引きが重要となる。それをバーチャルでもできるようにしたゲームと言えそうだ。

 こちらは、6月に開催された第25回 3D&バーチャル リアリティ展(IVR)への出展物。ステップに足を乗せ、VRヘッドマウントディスプレーを装着し、目に見える森の中の世界で交互に足を踏み込むと、ステッパーと連動して見える世界が動き出し、自分が森の中を歩いている感覚を味わえる。シェルパ(福岡市中央区)という会社が展示していたもので、ほかにもルームランナーやエアロバイクといったフィットネス機器とVRを組み合わせ、居ながらにして別の場所を動き回る楽しさを与えていた。

 建築用のCGパースや景観シミュレーション制作などを行っている積木製作(東京都墨田区)が展示していたのは、高所での作業が持つ怖さをVRで体感させてくれるトレーニングシステムだ。VRヘッドマウントディスプレーを装着し、両足にトラッカーを取り付け、手にコントローラーを持って立つと、そこが15階建てのビルを建設している現場になる。体験者が屋上の縁にかけられた足場の上を歩いていくと、建築資材を取って欲しいという声が聞こえて来る。

 体験者が屋上の縁からいったん内側を向き、資材を手に取ってから振り向くと、真下まで続くビルの外壁が見え、資材を求める声がそちらから聞こえてくる。答えて手渡そうと身を乗り出した瞬間、体験者は屋上から転落してしまう。歩いた時に見える周囲の光景や、作業のために体を動かす行為が、実際の工事現場で同じような状況になった時のことを強く感じさせ、そこでの気の緩みが転落に繋がることを体験者の心身に強く刻み込む。現実を再現するVRならではの効果と言えそうだ。