東芝、半導体子会社売却の舞台裏 二転三転の激しいせめぎ合い、「劇場型買収劇」に

 
東芝は半導体子会社の売却先をめぐり、最後まで判断が揺れた=東京都港区(宮川浩和撮影)

 二転三転した東芝メモリの売却交渉。その舞台裏では米投資ファンドのベインキャピタルが主導する日米韓連合と、WDが加わる日米連合との間で土壇場まで激しいせめぎ合いがあった。

 「どういうことですか?この5550億円という数字は。拠出額は3千億円だったはずだが」

 官民ファンドの産業革新機構が19日午前に開いた投資決定機関の産業革新委員会。配布された日米連合の新たな案に目を通した委員の一人が疑問を呈した。

 「これが最終案です」。機構側はそう説明した。機構が出資額を上積みする代わりに、WDに出資を諦めさせることが柱で、WDに大幅に譲歩させる内容だった。

 このままでは日米韓連合に売却されてしまう…。WDとの係争状態が続けば、売却手続きが頓挫しかねないと危惧する革新機構は焦りを募らせていた。そうした中、18日に投資実務担当者が「最後の勝負をやらせてほしい」と申し出たのが、この案だった。

 革新機構の投資能力は2兆円。その4分の1を一つの案件に投じることになるためリスクは大きいが、採用されれば起死回生の大逆転ホームランになる。「この案でいきましょう」。7人の委員全員が賛成し、提案内容はただちに東芝側へ伝えられた。

 もっとも、まだ足りないものがあった。WDの同意は現場担当者のものだった。東芝が信用するよう、スティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)のサインがほしい。革新機構はWD側に求めた。

 しかし、返事は一向に来ない。「本当に来るんですか? エビデンス(証拠)がないと取締役会には諮れません」。東芝の綱川智社長に問いただされ、革新機構幹部は「翌朝まで待っていただきたい」と答えるのが精いっぱいだった。

 結局、米カリフォルニア州サンノゼのWD本社から書面が届いたのは、取締役会を数時間後に控えた20日午前4時前のことだった。

 だが、乾坤一擲のこの案を東芝は採用しなかった。WDへの不信感もあるが、東芝関係者は「精査できなかった」と時間切れだったことを明かす。

 「20日の決定は極めて重い。本当にぎりぎりですよ」。主力取引銀行首脳は取締役会を控え、綱川社長にこう伝えていた。日米韓連合と日米連合の間で揺れ動き、結論を先送りしてきた東芝に銀行も我慢の限界だった。

 経営再建中の東芝に融資するのは東芝メモリの売却益をあてにするからだ。主力行は早期決着に向け、訴訟を回避できるWDの陣営を推していたが「どちらでもいいから早く決めてくれ」(銀行幹部)とトーンは変わっていた。9月末の融資枠の更新を控え、銀行団の圧力は強かった。

 「明日、最終案を出せなくなるかもしれない」。日米韓連合内では東芝への最終提案を翌日に控えた7日、騒然となった。

 日米韓連合は8日に買収総額の積み増しといった破格の条件を盛り込む案を東芝に提示し、当時の劣勢を巻き返すつもりだった。だが、前日になって政府筋から待ったがかかった。実は東芝とWDの7日の協議で日米連合への売却が固まる可能性があり、「今さら余計なことをするな」との趣旨の圧力があった。

 「せっかく、まとめ上げた案が幻になるのか」。東芝とWDの協議の報告を待っていた日米韓連合の関係者の耳に夜半になって飛び込んできたのは「決裂した」との一報だった。何とか、日米韓連合の糸はつながり、そこから怒濤(どとう)の逆転劇が始まった。

 東芝が9月13日に契約に向け覚書を交わしたのは日米韓連合だった。だが、最後になるまで売却先はどちらに転ぶかは分からない状況だった。

 売却交渉が迷走したのはトップの決断力の問題もあるが、経済産業省や銀行団ら多くの関係者の思惑に翻弄され、両陣営の提案合戦で薄氷のやりとりが繰り広げられた結果でもある。

 経済界首脳は最後にこう評した。「劇場型買収劇だ」(万福博之 井田通人)

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