多機能化する中継技術の進化 フリーランスプランナー・今昌司

スポーツi.
モニター室で映像を確認するエンジニアたち(ブルームバーグ)

 2001年、マリンメッセ福岡(福岡市博多区)を中心に開催された世界水泳選手権。テレビ中継ではスタート位置の各レーンに国旗と選手名が、レース中には世界記録を示すラインがそれぞれ表示され、CG技術を駆使した映像に興奮以上に感動さえ覚えた記憶がある。今では当たり前のように使われる技術ではあるが、競泳という競技の醍醐味(だいごみ)が一段と高まったことは間違いない。

 ◆リアルさ一層追求

 実はこの技術、元々は米スポーツビジョンが開発した「1st & Ten」というもので、その名の通り、アメリカンフットボールの試合で既に使用されていた。中継映像に10ヤードラインがCGで映し出されるため、視聴者はよりリアルに感じて試合に見入ってしまう-という仕掛けだ。その最新のCG技術が競泳の中継制作にも応用されたのである。そして今、スポーツ中継をよりリアルに楽しむため、映像技術の進化は想像を超えるスピードで進んでいる。

 12年ロンドン五輪では、水泳シンクロ競技で画期的な映像技術が使われた。NHKが開発した「ツインズカム」という水上と水中で2台のカメラを同時に使用するシステムだ。2つのカメラで撮影した映像を水面を境に合成し、水上と水中が一体となった映像を見ることが出来る。それまでは、水上の演技を映し出すカメラを主として時折水中画面に切り替える、という中継が一般的だったが、シンクロ競技の見えざる水中の演技をも同時に、一体画面として映し出すことに成功している。

 そして、リオ五輪と言えば、VR(仮想現実)の登場である。今ではさまざまな産業分野で活用されるVR技術も、その実証の現場となったのはスポーツだ。リオ五輪では、米NBCが五輪ホスト局であるOBS制作のVR映像を計85時間も放送している。ゴーグル型装置を装着しなければならないものの、競技の場にいる感覚で中継映像を見ることができる体験は、スポーツ観戦に新たな魅力を生み出した。独ブンデスリーガでは昨季より、VRストリーミング技術の先端企業ネクストVRと米FOXが提携し、ライブ中継によるVR国際映像を配信。VR放送は全世界的に拡大していく様相を呈している。

 ◆プロ野球で4D実験

 また、8月に札幌ドームで行われたプロ野球の北海道日本ハム対オリックス戦では「4D REPLAY」という技術を用いた映像制作の実証実験が行われた。同技術は例えば、打者がボールを捉える瞬間を360度方向から自由な視点で見ることを可能にする。米インテルがイスラエル企業のリプレイ・テクノロジーズを買収し、米プロスポーツ中継などで運用する「360°REPLAY」という3D合成による映像再生技術に、“時間”という4次元概念を足した映像制作システムである。3D合成映像に時間を足すことで、「4D REPLAY」による自由視点映像の生成時間は僅か5秒強に短縮されるという。自由視点映像を制作するために設置した球場内カメラは100台で、全カメラをリモートで同期制御する。このシステムが常設されていれば、ホームベース上のクロスプレーなどビデオ判定にも活用できる。しかも、視点を自由に可変できるため誤審を見逃すことはない。加えて、試合のハイライトやアーカイブ映像として活用されるようになれば、より一層、ファンの観戦満足度は高まるであろう。

 同じく8月の浦和レッズの鈴木啓太選手の引退試合では、「4K HDR」技術を用いて中継された。太陽光が直射する場所と日陰を同時にカメラで捉えると、プレーの視認が難しいほどのコントラストが生まれるが、全く違和感なく明るく鮮明度が高い映像として再現する。簡単に言えば、カメラが捉えられる明るさの幅が広がったということ。何よりも、画像の鮮明度が格段に高まり、ズーム映像では芝の飛び散る様も見える。

 HD、4K、そして8Kと、映像の解像度が革新的に高まりつつある中、プレーそのものをよりリアルな臨場感で映し出す技術はスポーツ中継に新たな醍醐味を与えている。スポーツ中継の本質的価値であるライブ、同時性に加えて、“リアル”という新たな魅力を現実のものにした最先端技術の進化を、この先も見続けていきたい。

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【プロフィル】今昌司

 こん・まさし 専修大法卒。広告会社各社で営業やスポーツ事業を担当。伊藤忠商事、ナイキジャパンを経て、2002年からフリーランスで国際スポーツ大会の運営計画設計、運営実務のほか、スポーツマーケティング企画業に従事。16年から亜細亜大経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師も務める。ブログは(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/umekichihouse/)