リーダー不在の寄り合い所帯 日米韓連合、「東芝メモリ」会見で不手際 会場には怒号も

 
会見中止を謝罪するベインキャピタルの杉本勇次日本代表=28日、東京都千代田区のパレスホテル

 東芝が、米投資ファンドのベインキャピタルを軸とする「日米韓連合」と、半導体子会社「東芝メモリ」の売却契約を28日に締結した。しかし、早くも日米韓連合の足並みの乱れを不安視する声が上がる。三重県四日市市の工場を共同運営し、国際仲裁裁判所に売却差し止めを求める米ウエスタン・デジタル(WD)との関係改善を含め、課題は多い。

 「会見を開くのに必要な関係者の同意が得られなかった。私どものコミュニケーション不足。深くおわび申し上げる」

 東芝と日米韓連合が契約を交わした28日の夕方、ベインキャピタルが都内のホテルで予定していた記者会見は予定の時間になっても始まらなかった。10分後にようやく登場したベインの杉本勇次日本代表は恐縮した表情で会見中止を伝え、何度も謝罪した。

 「本当に契約は成立したのか」「呼びつけておいてばかにしているのか」

 会場は記者の怒号で騒然となった。杉本氏は「契約にはまったく影響しない」と買収が白紙に戻る可能性を否定したが“寄り合い所帯”の難しさを予感させる一幕だった。

 「『船頭多くして船、山に上る』にならなければいいが…」。関係者はそう語る。東芝、韓国半導体大手のSKハイニックス、米アップル、米デル…。連合にはそうそうたる顔ぶれが並ぶ。政府系の産業革新機構と日本政策投資銀行も資本参加を視野に入れる。

 だが、それぞれ国も違えば、東芝メモリとの関係も異なる。一流の役者をかき集めたからといって名作が生まれるとはかぎらない。

 開発や製造に巨額の資金を必要とする半導体ビジネスでは、迅速な経営判断が欠かせない。韓国のサムスン電子は、財閥ならではともいえる強力なリーダーシップで、世界首位の半導体メーカーへとのし上がった。

 「(日米韓連合は)牽引(けんいん)役が見当たらない。利害関係者が多いので調整も難しく、世界で戦えないのでは」。買収でWDと組んで敗れた米投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の幹部は冷ややかにみる。

 本来なら、日本側の代表ともいえる革新機構が主導的役割を果たすべきだ。しかしWDとの訴訟が続く間は資金を出せないため、政投銀とともに買収時のメンバーから外された。

 しかも、革新機構は表向きは日米韓連合の一員に名を連ねていたが、実際には経済産業省の意向もあり、WDやKKRとの連合に肩入れしていた。

 「内心、面白くないだろう」。日米韓連合への売却が決まった際、同連合のある関係者は革新機構社員の胸の内を推し量った。

 ■東芝とWD 見えぬ関係修復の道筋

 「その誓約書にはサインができません」

 東芝とWDが共同運営する三重県四日市市の工場では、WDの新入社員は最初に東芝メモリが作成した情報セキュリティーの誓約書にサインする必要がある。だが、WDは東芝メモリの存在すら認めておらず、サインができない。「それなら中には入れませんね」。半導体事業の生命線となる工場では、こんな異常事態が続いている。

 怒り心頭

 「あらゆる努力をしたのに、東芝が起こした行動を遺憾に思う」。WDは東芝が「日米韓連合」への東芝メモリの売却を発表した20日に声明を出した。連合にはライバルのSKハイニックスが加わっており、怒り心頭だ。工場の運営も含め、WDとの関係を引き継がなければならない日米韓連合の悩みは深い。

 「ここまで関係は悪化しているのか…」。売却先の決定前に四日市工場を訪れた革新機構の社員は絶句した。マネジャークラスの社員を集め、WDの印象を率直に語ってもらったところ、「嫌いな奴だけ集めたのではないか」というくらい、ことごとく拒否反応を示したからだ。

 売却交渉では、経産省や取引銀行の後押しもあり、東芝の綱川智社長が8月下旬、訴訟リスクを避けられるWDの連合への売却に大きく傾いた。だが、現場からの「訴訟で恫喝(どうかつ)するWDは信用できない」との強い反発で、決断できなかった経緯がある。

 共倒れの危機

 協業ビジネスで最も大切な相互信頼が、売却交渉を通じてともに大きく毀損(きそん)しているのが、今の東芝とWDだ。とはいえ、協業の清算は難しい。「切っても切れぬ関係、夫婦だ」と東芝関係者も語る。WDはともかく、実際に工場で協業するWD子会社の米サンディスクと東芝は、設計開発で強固な協力関係を構築し、業界トップのサムスン電子と戦える競争力を保持してきた。

 「事業面の影響を考えるとこのままでは共倒れ。早期に和解に持ち込む必要がある」。買収でWDに勝利したベインの関係者はこう気をもんでいる。

 「差し止めが一番嫌です」と東芝関係者は本音を漏らす。東芝は裁判で勝つつもりだが、もし負ければ、売却自体が白紙となる可能性があり、債務超過を解消できない事態に陥りかねないからだ。

 かたや、WDも東芝が四日市市の新工場棟の単独投資を決めており、次世代の半導体メモリーを販売できない可能性がある。東芝は訴訟に負けようものなら「WDが設備を買っても、(東芝が手がける)工場のオペレーションはしない」(東芝関係者)。顧客への供給責任が果たせなくなれば、経営への深刻な打撃になる。

 日米韓連合関係者は東芝に対し、WDに現状の条件の供給継続を約束することで年内に和解にこぎつけることを提案しているもよう。ただ、そんな条件をWDがのむのか。WDも「裁判で何が合理的かを分かってもらう」と鼻息は荒い。

 両社の関係修復の道筋は一向に見えてこない。このままチキンレースを続ければ、共倒れの危機が現実味を帯びる。(万福博之、井田通人)

 ■東芝の半導体メモリー事業売却をめぐる経緯

  1月27日 半導体メモリー事業の分社化を発表

  2月14日 同事業の売却方針を表明

  3月29日 1次入札を締め切り

  4月 1日 同事業を分社化し、「東芝メモリ」が発足

  5月15日 WDが国際仲裁裁判所に売却差し止めを申し立て

    19日 2次入札を締め切り

  6月15日 WDが米裁判所に売却差し止めを申し立て

    21日 日米韓連合を優先交渉先に決定

  8月10日 WD陣営、鴻海精密工業陣営とも交渉開始と表明

    24日 経営会議でWDと優先的に交渉を進めることを確認

    31日 WDへの独占交渉権付与を見送り、3陣営との交渉継続確認

  9月13日 日米韓連合と売却契約に向けた協議の覚書締結

    20日 取締役会で日米韓連合に売却する方針を決定

    28日 日米韓連合と売却契約締結

 10月24日 臨時株主総会で東芝メモリ売却について説明

 来年3月 東芝が上場を維持するための東芝メモリ売却期限