東芝従業員「泥船に見切り」 3カ月で1千人減 トヨタなどの“草刈り場”に?

 

 【東芝 薄氷の再建】(上)

 「若い人が次々に辞めていく…」

 そんな嘆き節を漏らしたのは東芝OBの男性だ。60代半ばを過ぎても、高度成長時代を通じ会社員生活の大半を過ごした東芝には愛着があるだけに、現役社員の退職が続くことに胸を痛めている。

 「いま話題の半導体事業も近年はサムスンに追いつけず、辞める若い技術者は他でも自分の力を生かそうとし、ベテランも大学研究室などに転じていく。もう将来がないということか…」。表情を曇らせるOBはそう言って口をつぐんだ。

 トヨタ「ぜひ弊社に」

 東芝の連結ベース従業員数は3月末の15万3492人からわずか3カ月後の6月末には15万2364人と1000人以上減少した。理由はつまびらかでないが、泥船から逃げ出しているかのようだ。

 「あの先端メーカーにお勤めなんですか! ぜひ弊社にきませんか」

 今夏、トヨタがJR南武線各駅に展開した人材募集広告にこんな文言が躍った。川崎市の沿線には東芝を含む電機各社の工場などが林立し、同社などのIT系エンジニア獲得に照準を合わせた形だ。背景にはコンピューターが不可欠な自動運転車開発など即戦力を求める業界事情がある。

 IT系エンジニアへの人材需要は急伸している。転職支援サービス会社によると、転職求人倍率(8月)は全体の1.9倍に対しIT系エンジニアは3.88倍だ。

 人材争奪戦の中で、落ち目の東芝は“草刈り場”になりかねない懸念がある。「辞める技術者らの率がいつもよりも高くなっている」。小さい声でそう打ち明けた東芝幹部は内心穏やかでないはずだ。

 外部には諦めと不信

 上場維持のため売却対象となった半導体子会社「東芝メモリ」。来年3月末の売却完了という日程から逆算すれば売却先の決定は今年8月末が期限とされた。だが、東芝の意思決定は迷走を重ねた。

 月をまたいだ9月上旬、あるファンド幹部は煮え切らない東芝を評してこう吐き捨てた。「春からずうっとこんな調子だよ。最初は5月ごろって言ってたんでね。まだ時間かかるよ」。投げやりな言葉に諦めと不信がのぞく。

 東芝はこの迷走と同時並行で、決算と有価証券報告書の発表も延期を繰り返した。そのたびに「リーダーシップの欠如」「優柔不断」「決められない東芝」と、酷評がメディアをにぎわした。かつての名門企業の醜態続きに外部の信頼は崩れ落ちていった。

 廃炉ビジネスに期待

 「信頼回復、企業再生の道のりはかなり難しい。過去の記憶がハンディになり続ける」

 BNPパリバ証券の中空麻奈チーフクレジットアナリストはこう指摘し、「仮に上場を維持できても投資家らステークホルダー(利害関係者)の信頼を得られるかは別だ。回復に3~5年はかかる」とみる。

 東芝は社会インフラ事業で生き残りを図る青写真を描くが、中空氏はそれに加えて原発の廃炉ビジネスが再生への具体策になると主張。「原発は国内だけでなく世界中にもあり競合も多くない。1基当たりの額が小規模でも安定的に稼いでいける」と力説し、キャッシュフローの安定化が企業再生に欠かせないという。

 人材の確保、信頼の回復そして稼ぎ頭の半導体事業なき後のビジネスモデルの再構築。難題を抱える「新生東芝」はこれまで以上の強い求心力を持つトップでなければ率いることは到底できない。再出発は経営陣刷新から始めなければならない。

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