掃除機のダイソンも…異業種からの参入相次ぐEV市場 やがて強力なライバルに

 
ダイソン本社の敷地内にある研究開発センター。同社は家電分野で培った技術を生かしEV事業に進出する=英中部マルムズベリー(ブルームバーグ)

 【マネジメント新時代】

 □日本電動化研究所 代表取締役・和田憲一郎

 掃除機で有名な英家電大手ダイソンが、2020年までに電気自動車(EV)分野に参入すると9月末公表した。自動車メーカーでもないダイソンの参入は、一見、とっぴとも思えるが、筆者からみれば、ある意味予想されたことであり、それほど驚くことではない。今回は、このように異業種から突然EV市場に参入するビジネスについて、どうとらえるのか筆者なりに考えてみたい。

 コア技術の保有がキー

 ダイソンは1993年にジェームズ・ダイソン氏によって設立された会社である。ダイソン氏は、掃除機のゴミがたまっていくと吸引力が落ちてしまう、当時の紙パック式掃除機に疑問を感じ、使っていても吸引力の落ちない掃除機ができないかと開発に着手した。その結果できたのがサイクロン方式と呼ばれるもので、遠心分離によりゴミを周辺に集め、空気の流れを分離したことで、使っていても吸引力が落ちない掃除機を開発し、世界的なヒットとなった。

 日本でもあちこち見られるようになったが、当初は、あの独特な金属音に慣れず、このような掃除機が本当に売れるのかなと思っていた記憶がある。しかし、今ではふと気がつくとダイソン製コードレス掃除機が自宅に置かれている。

 さて、ダイソンの特徴はモーターにある。サイクロン方式実現のためには、強力なモーターが必要となるが、最新のコードレス掃除機「V8」シリーズに採用されたDC(直流)ブラシレスモーターの最高回転数は毎分11万回転にも及ぶとか。またワイヤレスのため、エネルギー密度を上げた、円筒タイプのリチウムイオン電池を採用している。

 これから考えると、EV参入といっても、全くの素人ではなく、EVにとって主要部品であるモーターや電池のコア技術は少なくとも有しているといえる。つまりコア技術はある程度ありながら、次の成長分野としてEVに狙いを定めたのではないだろうか。

 新しい酒は新しい革袋に

 近年、伸びが見込まれるEVに異業種から参入が相次いでいる。特に中国では、これまでクルマを作ったことがなかったIT企業や家電企業などもある。また開発陣が少ないベンチャー企業でも、銀行・ファンドの資金援助を得て、EVビジネスに参入している。

 これら新興企業は、かなりの企業がデザインや設計の一部を開発するのみで、他の設計・試験・生産などは、設計会社や他自動車メーカーに委託する方式を採用している。つまり、この手法だと自社に技術がなかなか蓄積されず、継続的な開発は難しいのではと思ってしまう。

 それに引き換え、今回のダイソンは腰が据わっている。報道では、約400人の技術者を集め、バッテリーから車体の開発、生産まで行う計画とのこと。また、開発費は約20億ポンド(約2955億円)を投じるようである。

 欧州では「新しい酒は新しい革袋に」とよくいわれる。つまり、新しい考え方を生かそうとすれば、従来の組織ではなく、新しい組織や新しいマネジメントが必要であると。その点で、ダイソンは新規にEV開発陣を集め、要素技術から開発していることは、一過性ではなく本気の証しと思われる。

 一般的に、自動車ビジネスは車両の開発期間が3~4年と長く、かつ開発および量産準備段階で多額の費用がかかる。従ってキャッシュフローの面からは、収益が上がるまで長いビジネスの類であろう。若干部品点数が少ないEVでも同様であり、またEVはEVならではの信頼性、耐久性確保の難しさがある。このため、EVに参入するも、多くのベンチャー企業が開発段階で資金が尽きてしまい頓挫している。

 今後も異業種からEV市場に参入する企業が出てくるであろうが、成功するためには、長期的視点が欠かせない。長期計画に基づき、開発陣、資金をそろえ、計画段階では各国の規制も考慮しながら現実的な手を打っていくことが求められる。

 EVブームは今後も盛り上がるかもしれないが、生き残っていける企業はそう多くはない。日系自動車メーカーにとっても、このように腰を落ち着けて開発する企業が強力なライバルになる日が近いかもしれない。

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。61歳。福井県出身。

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