光と音を発する「LED内蔵ダンスシューズ」の可能性

日本発!起業家の挑戦
Orpheを開発した菊川裕也氏

 □no new folk studio代表・菊川裕也氏に聞く

 創業後すぐにメディアの注目を集めるスタートアップは、第1弾の製品を完成させて発送するやいなや潰れてしまうことがある。これは彼らが当初約束したビジョンに、実際には応えられないことが露呈した場合だ。一方で、多くのスタートアップのアイデアは、すぐには理解されないことも多い。創業者のビジョンが、ベンチャーキャピタル(VC)や一般の人たちの目にも見えるようになるには時間がかかる。

 Orphe(オルフェ)はLED内蔵、Bluetooth通信可能で、ソーシャルネットワークに対応するスマートフットウェアだ。ソーシャルでの共有を目的としたただのおしゃれな靴のように見えるが、少し掘り下げてみると、この製品の本当の価値と可能性が見えてくる。

 Orpheを開発したのは2014年10月創業の「no new folk studio」(東京都千代田区)。ものづくりのためのコワーキングスペースDMM.make AKIBA内にオフィスを構える。この特別な靴が、ゲームデザイナーから医師まであらゆる分野の人に可能性を見出された理由はどこにあるのだろう。代表の菊川裕也氏に話を聞いた。

 コンピューター内蔵

 --Orpheは海外でLED内蔵ダンスシューズと紹介されています

 「世界初のLED内蔵スマートフットウエアですが、それだけにとどまりません。スマートというのは、コンピューターが靴底の部分に入っているということです。モーションセンサー、スマホやMacと連動するためのBluetooth通信機能、そして両足合わせて約100個のLEDを搭載した靴底を持つ靴ですね」

 --1990年代のLA GEARのスニーカーなど、過去にもLED内蔵の靴はありましたね。大きな違いはセンサーと通信の機能ですか

 「インスピレーションはそうしたスニーカーからも来ていますが、アプローチが異なります。両者を『光る靴』というカテゴリーにあてはめてしまうことは簡単ですが、僕は靴を音を奏でる物と捉えて、電子楽器としての靴を実現したかったんです。そのためにテクノロジーを当てはめていきました」

 --靴を楽器として考えたことはありませんでした

 「考えたことはなくても、靴が床を踏み鳴らす音を実際に音楽として聞いたことはあると思います。タップダンスやフラメンコ、他にも世界中の民俗音楽で靴はよく使われる楽器です」

 --客層を教えてください。誰がOrpheを購入していますか

 「最初にコンセプトに食いついてくれた初期採用者はダンサーやパフォーマーでした。モーションセンサーと通信機能によって、ダンサーがOrpheを履いて踊ると足踏みに反応してOrphe自体が光るのはもちろん、足の動きによってステージの背景のライトを変えたり、音楽を奏でたりできます。靴に内蔵されたLEDは個別制御可能で、スマートフォンのアプリから色やデザインを変更できます。クリエーティブ・パフォーマンスの分野で音と光を使ったまったく新しい表現が可能になると思います」

 --Orphe開発前には違う種類の楽器を市場に提案したとか

 「はい。大学院(首都大東京)の研究室の仲間とPocoPoco(ポコポコ)を作りました。ビートを刻み音を鳴らす、箱型のミュージックシーケンサーのような楽器です。触感フィードバックを使って、押す、回すといったシンプルな動きで音を鳴らしたり、光らせたりできるものです」

 --おもしろそうですね。どのような反応がありましたか

 「プロトタイプを作って、実際に演奏している動画を撮り、学会で発表したりして世界中から良い反応を得られました。しかし、結局商品として実現するのは難しいという結論に至りました。大量生産を頭に入れて作ったものではなかったので、生産コストが高すぎたんです」

 --それに、ユーザーにまったく新しい楽器の演奏を学ばせるのは困難でしょうね。ギターが発明されてから楽器として一般に受け入れられるまでには200年もかかったんですから

 「それは僕たちも大きな挑戦と捉えている問題ですが、一番の解決策は直観的なデザインを用いることです。人はすでに靴の履き方、歩き方、踊り方を知っています。Orpheは人がすでによく理解しているそうした動きに基づく新しい楽器です」

 --つまり、すでに演奏法が知られていたピアノやオルガンの音の出し方を取り入れて、シンセサイザーが開発されたのと同じようなものですか

 「はい、その通りです」

 --なぜVCからではなくクラウドファンディングで資金を調達したのですか

 「ほとんどのVCにとって、楽器としての光る靴なんてアイデアは突拍子もなくて、奇妙な物に映ったのだと思います。2015年にクラウドファンディングサイトのIndiegogoで10万ドル(約1300万円)以上を集め、評判が広まり、実際に商品を発送できて、やっとVCからの関心が高まりました」

 --Orpheの構造についてもう少し詳しく教えてください

 「靴に精密機械を入れるので、開発時には耐久性を持たせるために苦労しました。何度もデザインし直し、3Dプリンターを使ったプロトタイプをたくさん作って今のデザインができました。Orpheには加速度・角速度・地磁気の9軸モーションセンサーが搭載されています。通常、センサーの平均誤差は1度ほどです」

 健康改善アプリ狙う

 --非常に精度が高いですね。Orpheをコントローラーとして使ったアプリケーションを考えているのですか。ダンスダンスレボリューションのようなリズムゲームやAR(拡張現実)・VR(仮想現実)のコントローラーとしての構想があるのでしょうか

 「もちろんです。Orpheに対応したアプリの開発を可能にするSDK(ソフトウェア開発キット)を今年4月にリリースしました。Orpheを取り巻くエコシステムが発展するに従って、僕たちの予想していないようなアプリも出てくると期待しています。すでに複数のVRゲーム企業とも連携していますし、ゲームエンジンのUnity用のSDKも公開しています。でも、僕たちが今注力しようとしているのはヘルスケア関連のアプリです」

 --ヘルスケアというと、リハビリ器具として使うのですか

 「リハビリだけではありません。どう歩くかということは、人の健康な生活にとってとても重要なことです。今、人々の歩き方と健康の改善に利用できるアプリを医師と協働で開発しようとしています。ここで鍵になるのは、OrpheのセンサーとLEDがほとんど時間差なくフィードバックを提供できるところです。つまり、リアルタイムのインタラクションが可能になります。歩行記録をつける靴ではありません」

 --Orpheを自社で製造して直接オンラインストアなどで販売していますね。靴やスポーツ用品のメーカーと提携する計画はありますか

 「2つの方向でコラボレーションを進めています。1つはファッション性が高く、ニッチなブランド製品として通常よりも高く売れる製品を開発するという計画です。4月にアパレルメーカーのアンリアレイジとのコラボモデルを発表し、予約を受け付けました。一方で、サプライチェーンを確立している、規模の大きな靴メーカーとの提携も計画しています。これにより、Orpheを今よりも低価格で提供できるようにしたいと思っています」

 菊川氏は当初約束したおしゃれな靴以上のことを実現するために、賢いスケーリング(事業規模の拡大)戦略を取っている。大企業と提携するこの手法は、日本のものづくり系スタートアップの間でよく採用されるようになっている。

 プロトタイプを作り、1万個に満たない小さなロットで生産するのは比較的簡単だ。しかし、その次の大量生産の段階ではそうはいかない。10万個、100万個規模で質を保ったまま量産するには資金が必要だ。製造ラインを構築し、サプライチェーンを開拓・管理しなければならない。

 米国ではスタートアップが量産のために必要な資金を手に入れられるが、今のところ日本のスタートアップがそれほど巨額の資金を調達する例は少ない。そこで、すでに大量生産の能力がある大企業と提携することが得策になる。ただ、スタートアップの資金調達ラウンドの規模が大きくなるにつれて、この傾向も変わるかもしれない。

 文:ティム・ロメロ

 訳:堀まどか

【プロフィル】ティム・ロメロ

 米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/

Read more