大手メーカーで相次ぐ検査不正 「器用な現場」への経営者の甘え

高論卓説
神戸製鋼所神戸本社の外観=神戸市中央区(沢野貴信撮影)

 「安全安心」「安心安全」と空念仏を唱えているうちに、安全確保を現場の職人芸に丸投げする危うさを生じさせてしまったのではないか。大手製造業による品質検査をめぐる不正行為の背景に、そんな甘さを感じる。

 神戸製鋼所の製品検査データ改竄(かいざん)、日産自動車やSUBARU(スバル)での無資格者による完成車検査と、相次いで問題が表面化した。

 経済同友会の小林喜光代表幹事は記者会見で、神戸製鋼と日産の問題に関して、こう述べている。「(経済同友会でも)これを他山の石とし、自分自身の問題として見直す良い機会にしたい。そうでないと、日本が築き上げたブランド価値は毀損(きそん)され、甚だしく落ちていくという危惧を持っている」と。

 不正はいずれもかなり長期にわたって常態化していた。

 神戸製鋼の検査データ改竄の期間は、10年はくだらないようだ。日産では無資格者による検査が「40年前から」と報じられている。スバルでは「30年前から」だという。

 これらが原因で事故や不具合が起きたという報告はまだない。神戸製鋼は10月26日の記者会見で、不正な製品の納入先525社のうち約8割で「安全性」が確認されたと言っている。

 納入先と決めた品質基準やJIS(日本工業規格)に外れた製品を出荷しても、直ちに危険とはいえない。品質基準は余裕を持たせて決めているので、大きく下回らない限り、使い物にならないわけではないからだ。

 現場の検査員は、検査数値が基準を満たさなくても、使用に堪える製品はデータを偽って合格にしていたのだろう。日産やスバルは、無資格者とはいえ、それなりに技能を持つ者に検査させていたらしい。完成検査は国に代わってメーカーが行い、検査員の資格認定の基準も各社に任されていた。

 思い出すのは、2002年に発覚した東京電力による原子力発電所での自主点検記録の改竄である。シュラウド(炉心隔壁)に経年変化でできたヒビを記録しなかった問題である。当時、運転中の原発については維持規格がなかったため、こうしたヒビを正直に報告すると、大ごとになるので現場で隠して処置していたのである。

 社長を辞任した南直哉氏は日経ビジネス(02年12月2日号)の「敗軍の将、兵を語る」欄で、信頼を揺るがしたことを謝しながらも、「安全性には全く問題はないということです」と述べている。

 問題の本質は、維持規格が存在しない中で、判断を現場任せにした点にある。南氏は「現場も、さぞ悩み苦しみながら判断を続けたことでしょう。この点は、責任を痛切に感じています」と反省している。

 これまで国際的にも高く評価されてきた日本のモノづくりは、基本的には現場の技能者の頑張りに支えられている。品質の維持から新技術の導入まで何でも器用にこなしてくれる。こうした現場への経営者の甘えが、今回の一連の不正問題に通底しているのではないか。神戸製鋼は「6つの誓い」を掲げ、「安全かつ安心」の製品・サービスを提供すると宣言しているが、空念仏だったわけだ。

 きれいごとはいらない。コスト、納期の圧力の下で、製造現場が安全基準の運用でどんな現実に直面しているのか、それを経営者はまず知るべきだろう。

【プロフィル】森一夫

 もり・かずお ジャーナリスト。早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は「日本の経営」(日本経済新聞社)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(同)など。67歳。

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