三菱UFJ「約1万人削減」 銀行員受難の時代がくる

 
「低金利」と「フィンテック」という大きな波が銀行業界に押し寄せている

 銀行員が再び受難の時代を迎えようとしている。各行は低金利による収益低下とフィンテックの普及(異業種の参入)という2つの課題に直面しており、大幅なコスト削減が必至の状況だ。銀行業界は近い将来、大量の人員削減を余儀なくされる可能性が高いだろう。[加谷珪一,ITmedia]

 銀行業界に激震が走った。三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、三菱UFJグループ)の平野信行社長が9月、「事務作業の自動化やデジタル化によって9500人相当の労働力を削減する」と発言したからだ。

 9500人というとグループの中核企業である三菱東京UFJ銀行の従業員の3割に相当する人数である。

 平野氏は、あくまで「9500人相当の労働力を削減する」と言っただけで、9500人をリストラするといったわけではない。余った労働力はよりクリエイティブな業務にシフトするとのことだが、皆がクリエイティブな業務に従事できるとは限らない。実質的な人員削減策と受け止めた銀行員は少なくないだろう。

 銀行員といえば、かつては高給取りで知られており、業務も「信用が第一」ということで、あらゆる部分にふんだんにコストをかけることが許されてきた。バブル崩壊後の不良債権問題から大手行が経営破綻したことなどもあり、銀行員の年収は大幅に下がったといわれる。それでも、銀行員の年収はまだまだ高い部類に入るし、銀行のコストのかけ方は他業種とは比較にならない。

 だがここ数年、2つの大きな波が銀行業界に押し寄せており、従来の環境を維持することが難しくなってきた。その波とは「低金利」と「フィンテック」である。

 量的緩和策の実施によって低金利化が進み、銀行は融資業務で利ざや(預金金利と貸出金利の差)を稼ぐことが難しくなっている。銀行の収益力は年々低下しており、従来の利益を維持するためには、コストを削減するしか方法がなくなりつつある。さらに、ダブルパンチとなっているのがフィンテックの進展である。

RPAによる業務自動化は銀行と相性がいい

 フィンテックは、時として銀行の収益拡大のチャンスと捉えられることもあるが、現実には逆の要素が強い。金融テクノロジーが普遍化してきたことで、異業種からの参入が容易になり、銀行の業務が脅かされようとしている。これから先、従来型システムの運用で、銀行が収益を伸ばすことは困難になっていくだろう。

 こうした状況から三菱UFJグループでは、組織全体のスリム化を実施し、利益を出しやすい体質に変えていく方針を固めた。その具体的な目標が9500人分の労働力削減というわけだ。

 スリム化はいくつかのフェーズに分けて実施される可能性が高い。最初に導入されるのは、おそらくRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と呼ばれる手法だろう。

 これは、業務を新たにシステム化するのではなく、既存システム上での操作をソフトに覚えさせ、一連の業務を自動化していく手法である。簡単に言ってしまうと、Excelのマクロ機能(手順を記憶して、自動的に実行させる機能)に近いものだが、複数のアプリケーションにまたがって、大規模に実行する様子をイメージすればよい。

 新規に情報システムを構築してしまうと、かえってコストが増加し、当初の目的とは逆効果になる可能性がある。また高度に設計された情報システムは、業務プロセスの変化に弱いという欠点もある。商品やサービスが変更された場合にはシステムも更新する必要があるが、この頻度が高すぎるとやはりコスト高を招く。

 RPAを使えば、既存のシステムに大きな変更を加える必要がないので、基本的に低コストで業務を自動化できる。しかも銀行の場合にはこのシステムを導入しやすい土壌がある。

 RPAは同じ作業を繰り返すような定型業務の自動化に最も効果を発揮する。一方で、イレギュラーな対応が多い業務の場合、RPAを導入してもそれほど生産性は高まらない。銀行業務は圧倒的に定型業務の割合が高く、銀行は導入に一番向いている業種とも言われる。メガバンクが本格的にRPAを導入すれば、かなりの業務手順を簡略化できるはずだ。

仮想通貨もコスト削減の一環

 三菱UFJグループは既存業務の自動化に加え、店舗のコスト削減も同時並行で進めていく可能性が高い。例えば、これは三菱UFJグループの事例ではないが、みずほ銀行とソフトバンクが設立した合弁会社J.Scoreは、9月からAIを活用した融資サービスをスタートさせている。J.Scoreは、審査から手続きまで、ほとんど全てのプロセスがネットで完結するので、業務に従事する人数を大幅に削減することが可能だ。

 最近、話題のデジタル通貨も実は同じ文脈で理解することができる。三菱UFJグループは10月2日、ビットコインで使われているブロックチェーンの技術を使ったデジタル通貨「MUFGコイン」を初公開した。このサービスは通貨という名称が付いているが、1円=1コインに変換する仕組みなので、厳密には通貨ではなく既存の電子マネーの一種である。だが一般的な事業者ではなく、銀行がこうしたサービスに乗り出した意味は大きい。

 先進国の中で日本は、突出して現金利用比率が高く、銀行は現金の管理や輸送に多大なコストをかけている。現金のやり取りがこうした電子マネー系にシフトすれば、現場の事務作業は大幅に減少し、店舗の運営コストを下げることができる。

 また電子マネー系の情報システムは、勘定系と呼ばれる既存の銀行の決済システムと比較して、はるかに低コストで構築・運用が可能である。一連のサービスが普及すれば、店舗費用に加えシステム経費も同時に削減できるだろう。

 同グループでは一連の取り組みの結果として、1200億円のコスト削減効果を見込んでいる。内訳の詳細は不明だが、9500人分の労働力が削減される話と考え合わせると、人材シフトだけにとどまらず、自然減なども含めた人員削減の効果が考慮されている可能性は高い。

 銀行員は、不良債権問題から解放されたのもつかの間、再び大きな試練に直面しようとしている。

■加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。

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