日本の「失われた20年」問題 銀行が取れないリスクを取る「直接金融」が解決策となるか

提供:PRESIDENT Online
※写真はイメージです(Getty Images)

 銀行は融資の際に担保をとる。裏を返せば、担保がなければ融資はできない。この問題を解消しようと、クラウドリアルティ(東京都千代田区)は不動産証券化とクラウドファンディングを組み合わせて、ユニークな事業の資金調達を支援している。すでに待機児童解消を目指した保育施設や、京町家の再生ビジネスなどの資金を集めた。同社の鬼頭武嗣社長に起業の狙いを聞いた--。

 地域社会の問題解決をビジネスにする

 --どのような事業を手がけているのですか。

 クラウドファンディングの仕組みを通じて、建築・不動産についての資金需要と、個人を中心とした投資家の投資需要を直接結び付け、それぞれに資金調達と優良な不動産投資の機会を提供することを目的にしています。社名は群衆を意味する「Crowd」と不動産を意味する「Realty」を結び付け、相互に資金を循環させながら、双方の成長を図っていきたいという思いを込めています。

 私が建築、不動産に関わり始めた2000年代以降、日本では人口減少、都市の縮退局面に差し掛かっていました。不動産投資だけでなく建築や都市の在り方としても変曲点を迎え、遊休不動産の再生やリノベーションを通した地域再生など、既存の枠組みに収まらない新しい価値創造と資金需要が生まれています。一方、資本市場を介してリスクマネーを調達できている建築・不動産は、2000兆円超とも言われる日本の不動産ストックの総量と比べると、まだまだごく一部です。また、上場REITの投資主構成を見ても日本の個人投資家は全体の2割に満たない水準で、個人の資本参加も十分に進んでいません。

 --京都では「町家再生ビジネス」を手がけました。

 京都市東山区の五条坂下地区にある町家を、高級宿泊施設に改装します。資金は個人から少額の出資をインターネットで募りました。7200万円の出資を募ったところ、約3週間で111人の投資家から申し込みがあり、満額に達しました。日本で初めて現物不動産の証券化をオンラインで完結させた事例で、新しいリスクマネーの調達手段として地方創生にも貢献できると考えています。

 また、内閣府主導で新しく始まった企業主導型保育事業の制度を活用し、東京・渋谷区上原の待機児童の解消を目的に、シェアハウスと保育所を融合した施設の用地取得のファンドを8月17日に募集開始。約10日間で1.7億円超を調達しました。これも地域社会の問題解決を目的にしています。

 銀行が取れないリスクをわれわれが取る

 --銀行からの借り入れはできないのでしょうか。

 銀行は主に不動産の担保価値をもとに融資の判断をしますが、弊社のクラウドファンディングでは投資家が将来のリターンをもとにお金を投じます。銀行がリスクを取れない資金需要をわれわれが取り込んでいきます。

 京町家の例では、投資家の出資金は約3年にわたって運用されることになりますが、単に社会問題を解決するだけでなく、年率10%という想定利回りで、投資としても十分に魅力を感じてもらえるプロジェクトにしています。運用手数料は元本に対して2%ですが、低金利の現在、広く市場に出回っているもので、これだけの利回りを出せる金融商品は少ないのではないかと思います。

 --鬼頭社長は「建築学科卒業」というユニークな経歴です。

 建築学科では、デザインを行う過程で目に見えてわかる物理的な定量データだけでなく、歴史的・文化的コンテクスト(背景)を読むことの重要性を学びました。そういった考え方が今回の町家再生のようなプロジェクトに活かされているのかなと思います。

 一方で、私が学生だった時代は日本で不動産証券化市場が拡大した時期とちょうど重なるのですが、資本市場を介して多額の資金が建築の世界に流れ込んで来ているのを見て、建築が持つ経済的な側面もこれまで以上に重要になっているのではと感じていました。

 そんな中、大学院在籍中に不動産ファンドで1年半ほどインターンとして働く機会を得たのですが、そこでは投資という観点での建築や不動産のバリューアップに対する考え方や、グローバルな環境で投資や運用を学びました。

 また、起業する直前までメリルリンチの投資銀行部門で不動産セクターのカバレッジバンカーとして働いていたのですが、その時に主幹事として数多くのグローバルオファリングに携わり、それがこれまでの経験と組み合わさって今の、クラウドリアルティの根底に流れる思想が出来上がった気がします。

 --今年7月、優れた技術やアイデアを発掘するプログラム「三菱UFJファイナンシャル・グループDIGITALアクセラレータ」でグランプリを獲得しました。どこが評価されたと受け止めていますか。

 こちらは建築というよりは、金融という切り口でグローバルな事業展開に挑戦していることが評価されたことが理由の一つと聞いています。今、最も可能性を感じているのがエストニアで、子会社を置いています。国が暗号通貨の発行を計画するなど、さまざまな領域で先進的なIT活用が進んでいますし、現地の法規制がこうしたビジネスを展開しやすいという側面もあります。また、EU域内にあるので、今後、欧州でビジネスを広げていくため拠点としても位置づけています。エストニア以外にもアジアや北米での事業展開も視野に入れて、日々新しいクロスボーダーの証券化スキームを開発しています。

 間接金融の銀行とは共存共栄できる

 --今後の目標は。

 ビジョンは、P2Pベースの非中央集権型の直接金融市場を創ることです。既存のキャピタルマーケットは、国ごとに規制当局が存在し、証券取引所や、証券会社が中央集権的にコントロールしていますが、まだまだ非効率な部分が多く残っていると感じています。そうでなく、テクノロジーを活用しつつ合意形成や情報開示の仕組みをもっと効率化することで、投資家や発行体が自由に低コストで投資できる世界観を実現したいと思っています。

 だが、この新しい市場が銀行をディスラプト(破壊)するとは思っていません。銀行が担っている間接金融と、われわれが担っている直接金融でのエクイティファイナンスは役割が異なります。

 日本はデッドファイナンス(間接金融)が中心で成長してきましたが、経済の発展に直接金融の役割も無視できない。日本の「失われた20年」の原因の一つは、誰もリスクを取らず、次の時代の事業を育てて来なかったからではないかと思います。リスクマネーを出してビジネスを育成することを怠ったからです。

 事業を立ち上げる際にはリスクマネーを出すことができる人からエクイティ性の資金を調達し、事業が安定的に回り始めたら資本コストの低い銀行融資に切り替える。そんな形で既存の金融機関と連携していくことも重要ではないかと考えています。

 鬼頭武嗣(きとう・たけし)

 クラウドリアルティ社長。2005年東京大学工学部建築学科卒。07年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了、ボストンコンサルティング・グループ入社。2010年メリルリンチ日本証券入社。投資銀行部門にて不動産の開発証券化に関するアドバイザリー業務などの案件を担当。14年クラウドリアルティを設立し現職。

 (クラウドリアルティ社長 鬼頭 武嗣 取材・構成=経済ジャーナリスト 丸山隆平)

Read more