無料WiFiへの自動接続・認証を実現 「タウンWiFi」の戦略

日本発!起業家の挑戦
タウンWiFiを運営する荻田剛大氏

 □タウンWiFi荻田剛大CEOに聞く

 国内のスタートアップが大企業に真っ向から挑戦して勝つことは珍しい。しかし、荻田剛大CEOの率いる「タウンWiFi(ワイファイ)」はまさにそれを成し遂げようとしている。

 タウンWiFiは街中の無料WiFiスポットを探し出し、自動的に接続・登録・認証まで行うモバイルアプリだ。タウンWiFiは主にユーザーエクスペリエンスの向上と口コミによってユーザーを獲得してきた。2015年に合同会社WiFiシェアとして創業して以来の道のりと海外進出について荻田氏に聞いた。

 世界200万カ所で

 --周囲のWiFiスポットを利用するための類似のアプリは複数あります。タウンWiFiの特徴は

 「とにかく簡単に使えることです。タウンWiFiは、世界中のほとんどの公衆WiFiスポットを利用するときに必要な認証、ログイン、登録をすべて自動で行います。他のアプリは、通信できるようになるまでにウェブサイトを開いて何かを選択したり入力したりと数画面を経なければならないものが多いです」

 --「世界中のほとんど」というと大げさに聞こえますが、仕組みはどうなっているのですか

 「現在、世界各国で200万、日本国内では40万カ所のWiFiスポットに接続できます。今のところ、海外で多いのは米国内のスポットです。WiFiを提供する大企業と提携関係にはありません。私たちのような小さな会社にとって大企業との交渉はとても難しいと思います。私たちがやっているのは、たとえば東京メトロやスターバックスといった場所で利用できる無料WiFiの登録プロセスを自動化するということです」

 --小さな会社にとっては、そういったWiFiスポットを提供する店舗すべてを訪れるのも簡単ではないでしょう。どのようにスポットを増やしていったのですか

 「広くチェーンを展開しているところには実際に出向きました。タウンWiFiを提供するにあたって重要なポイントは、チェーンの飲食店などでは各店舗が独自のWiFiを提供しているのではなく、全店舗で同じ認証プロセスを使っていることです。ですから、1店舗訪れれば、何千ものWiFiスポットに対応することが可能になるのです」

 「もう一つの手法は、ユーザーのデータに頼ることです。1人のユーザーが手動で新しいWiFiスポットに登録してログインしたり、接続に失敗したりすると、私たちはその履歴をデータベースに追加して分析し、スポットを追加します。するとタウンWiFiの全ユーザーが近くに行ったときに自動的にそのWiFiスポットにログインできるようになります。この方法を取ることで、WiFiスポットを提供する店舗側やWiFi事業者が認証プロセスを変更したときにも、情報を常に新しくして対応できます」

 --ユーザー数は?

 「200万人以上です。アクティブユーザーも100万人以上います。今はほとんどが日本在住のユーザーですが、昨年の韓国、今年春の米国、台湾、香港、マカオのWiFiスポット対応に続き、その他のアジア地域、そしてヨーロッパ諸国にも対応する予定です。実際に対応以降、韓国や米国ではユーザー数が倍増しています」

 --楽天出身だそうですね。楽天は起業家がたくさん輩出されている印象があります

 「はい。楽天株式会社に入社して9年間働きました。自分がよくスマホを使っていて通信量が増え、速度制限がかけられることがよくあったんです。どこへ行ってもネットが使い放題の環境を実現するために独立して、楽天の同僚と起業しましたが、自分が起業するなんて想像していませんでした。ただこのアイデアに夢中になってしまったんです。そもそも楽天には、大企業を辞めて楽天を創業した三木谷さんというロールモデルがいるので、起業家が多いのかもしれません」

 --タウンWiFiの登録・利用は無料です。収益をあげる方法は?

 「まず、今年から通信の保護機能(VPN接続)を追加し、これによって月に1GBまでの通信は無料で保護されますが、それ以上のWiFi通信を暗号化するために有料のプレミアムプラン(月額300円)を用意しています。また、無料のWiFiが近くにないときに有料で接続できるオプションを加えようと考えています。これは海外、特に中国などで旅行者向けに有効だと思います」

 「さらに、ユーザーに無料WiFiがほしいところをリクエストしてもらい、人々がどこにWiFiスポットを設置してほしいと思っているかをデータにして販売しています。WiFi事業者はこの情報に基づいて、WiFiスポットの需要がある店舗に設置を勧めます。たとえばカフェなどで、WiFiがあれば顧客が増えると見込まれる場合などです。また、すでにWiFiを提供しているお店には、ユーザーが実際にどのようにそれを使っているかを詳細データにして販売します。WiFi通信のプロバイダーが設置店舗にこうした情報を分かりやすく解析して伝えることは少ないのです 」

 --最大の競合アプリは

 「大きいものは1つしかありません。NTTのグループ会社が提供するJapan Connected-free Wi-Fi、通称Japan WiFiです。NTTは誰もが知る会社です。十分なマーケティング予算があり、タウンWiFiよりもリリースが3年先行していました。けれども、私たちはリリースから約1年でJapan WiFiのダウンロード数にほぼ並びました。アクティブユーザー数では勝っていたと思います。私たちは高い成長率を実現しています」

 --どうやってそこまで成長できたんですか? スタートアップが大企業に真っ向から勝負して肩を並べる、そして勝つというのは珍しいことです

 「ユーザーの使いやすさを第一に考えています。競合アプリでは、ユーザーがWiFiを使いたいときにアプリを開いて、その都度接続ボタンをタップしなければなりません。一方タウンWiFiではバックグラウンドで自動的に接続できるので、ユーザーは1度アプリをインストールして登録しておけば、いちいち考えなくても通信ができるようになります」

 市場拡大を見込む

 --NTTグループ会社には店舗へのアクセス、提携関係企業とのネットワーク、そしてマーケティング予算がそろっています。タウンWiFiの存在を世間に知ってもらうためにどんなことをしましたか

 「特になにもしていないんです。ほとんどが口コミ効果です。リリースから2週間後にはユーザーが結構いて、1カ月後には30万人になっていたと思います。そこからどんどんダウンロード数が伸びていきました。正直に言うと、こんな伸びは予測していなかったので準備もできておらず、社内はパニックになりそうでした。それだけのユーザー数に対応できるサーバーではなかったですし。とても忙しい日々が続きましたが、なんとか順調にここまでこれています」

 --携帯電話会社がデータ通信の料金プランを工夫して改善していくことにより、公衆WiFiの人気は衰えると思いますか

 「重要な指摘ですが、私はそうは思いません。データ通信プランがよくなったとしても、動画のダウンロードによるデータの増量、インターネットの利用が加速するスピードの方が速いです。容量がいくら大きくなっても、私たちはもっと欲しくなる。ですから、無料の公衆WiFiにはこの先も出番があります。私たちのアプリは単にWiFiの接続を自動化するサービスではなく、テレコムサービスです。ユーザーの約1割は、携帯電話の事業者と契約せず、WiFi接続だけに頼っています。1割はかなり大きい数字です。特に、ベトナム、インドネシア、マレーシアといった東南アジア諸国ではそういう使い方をする人がどんどん増えています」

 --海外展開について聞きます。韓国、米国、台湾といった市場を最初に対応する地域に選んだのはなぜですか

 「国際的にも、口コミでサービスの利用が増えていくことを期待しているので、日本からの観光客が多く、また訪日観光客も多い国に注力したいと考えたからです。すでに国内でサービスを利用している人が海外旅行に出かけたときに現地の公衆WiFiに接続できると便利です。また、訪日外国人が日本でタウンWiFiを使い、帰国後も利用できることに気付くと口コミが広がる可能性が高いと考えました。条件に合う国からサービス展開を始めたんです」

 タウンWiFiが、少ない従業員とマーケティング予算で、大企業のサービスに劣らぬダウンロード数を達成していると聞き、うれしくなった。こうした成功ストーリーは、大企業とスタートアップが等しく市場のシェアをめぐって競える状況が日本に生まれつつあることを示す。また、ユーザーがブランドの名前ではなく、ユーザーエクスペリエンスの良いものを選んでいることの証しでもある。国内のスタートアップ界にとって、期待の膨らむ材料だ。

 文:ティム・ロメロ

 訳:堀まどか

【プロフィル】ティム・ロメロ

 米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/

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