日独“頂上決戦”の実現は? 世界一速いスポーツカーはどれだ!

木下隆之のクルマ三昧
日本のレクサスLC(右から2台目)と日産GT-R(同4台目)がDTMでデモランを披露

 いま、モータースポーツ界で起ころうとしている、ちょっとワクワクするムーブメントを紹介しよう。「ドイツ・ツーリングカー・マイスター(DTM)」と日本の「スーパーGT(SGT)」の、合体の動きが本格的化しているのである。

日本のレクサスと日産がデモラン

 数年前に共催の企画が沸き起こり、それがジリジリとしか進展しないままいまに至っているのだが、先月のDTM最終戦ホッケンハイムサーキット(ドイツ)に、日本のレクサスと日産がマシンを空輸、15万人という大観衆の前でデモンストレーションランを披露したのだ。

 すわ、いよいよ共催か!? 関係者の誰もが色めき立った。それほど今回のデモンストレーションランは、我々モータースポーツ人にとっては、とりわけ運命の瞬間にも思える出来事だったのである。

 馴染みのない人には「?」だろうから、ちょっと説明すると…。

 DTMは、ドイツで圧倒的な人気を誇るツーリングカーレースである。10月の最終戦には15万の観客が詰めかけた。

 現在はBMWとアウディ、そしてメルセデス・ベンツが参戦。マシン性能は桁外れで、4リッターV型8気筒のエンジンは550馬力オーバーを絞り出す。コーナリングはほとんどフォーミュラーマシンのよう。バトルは激しく、接触や大クラッシュは日常茶飯事。「喧嘩レース」と呼ばれるほどにエキサイトしているのである。

 一方のSGTも、日本でもっとも人気の高いレースであり、サーキットの観客席を常に埋め尽くす。

 レクサス、ホンダ、日産が膨大な予算を投じ、ワークス体制でマシンを送り込んでいる。2リッター直列4気筒ターボエンジンは600馬力オーバー。DTMと同様、コーナリング性能はF1マシンに匹敵するほど。こっちも「喧嘩レース」と呼んでも許されるだろう。

 ドライバーのメンツも凄い。DTMもSGTも、多くの元F1ドライバーがドライブする。

 トヨタF1時代を戦ったティモ・グロックやポール・ディ・レスタがDTMを戦い、日本のSGTでも中嶋一貴、小林可夢偉などF1で名を馳せたドライバーが争う。F1優勝経験者のヘイキ・コバライネンがレクサスをトライブ。先日の鈴鹿戦では、F1ワールドチャンピオンのジェンソン・バトンがホンダで戦った。というように、マシンも世界一ならば、ドライバーレベルも超越しているのだ。

 そう、欧州で人気を圧倒するDTMと日本最高峰のSGTがともに戦ったらさぞかしエキサイティングだろうな、というのが共催案浮上のきっかけだ。いわば趣は「ツーリングカー世界一決定戦」なのである。

 となると、どっちが速いのだろうかという興味が湧いてくる。そんなモータースポーツファンの声に触発されたのか、SGT代表の坂東正明と、DTM代表のゲルハルト・ベルガー(元F1ドライバー)が、混走バトルの実現に向けて度重なる視察と交渉をつづけているのだ。

日独決戦が簡単に進まない事情

 だがことは素直には進まない。というのも、日本とドイツはともに、自動車先進国である。特にツーリングカーと技術ではお互いに世界一のプライドがある。

 ドイツはアウトバーンがありポルシェを生み出した国なのだ。一方で日本も、自動車世界生産トップの国の自負がある。開催されればそれは、「ツーリングカー世界一決定戦」を意味するわけで、優劣がつきかねない。

 ドライバーに関しても同様で、ミハエル・シューマッハやセバスチャン・ベッテルというF1チャンピオンを始め、数多くのF1ドライバーを輩出したドイツのプライドもあるし、日本にも意地がある。お互いに、負けるレースはまっぴらごめんなのである。

 実はタイヤ銘柄やエンジン規定が異なる。そもそもDTMがスプリントレースでありSGTは耐久レースの形態をとる。レギュレーションに差異がある。規則をどう調整し、どう戦うのかを双方が納得しない限り、混走バトルは実現しないのである。

 そう、メーカーも威信をかけているわけであり、ここでの負けは許されない。ドライバーも同様に、勝って名を上げたいと企む。実際にパスカル・ヴェアラインは、DTMでの活躍が認められ、現在F1のシートを獲得した。決してお祭りごとでは許されないレースなのだ。軽はずみに「はい、日独決戦ね」とはならない事情はそこにもあるのだ。

 ともあれ、様々な障害は取り除かれつつある。DTM最終戦ホッケンハイムで日本のマシンがデモンストレーションランを披露したように、11月のSGT最終戦ツインリンクもてぎ(栃木)では、DTMの3メーカーがやってきてSGTマシンを交えた6台でサーキットを周回する。機は熟しつつある。

【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は隔週金曜日。

【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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