グーグル、AIで中国再進出 市場開拓に立ちはだかる「検閲と忠誠心」のカベ

提供:ブルームバーグ
グーグルが7年前に中国市場から撤退する前に中国部門の本社が入居していたビル=2010年12月、北京(ブルームバーグ)

 米インターネット検索大手グーグルが7年ぶりに中国市場に進出する。ただし、今回は検索エンジンではなく人工知能(AI)で攻勢をかける計画だ。関係者によれば、グーグルは世界最大のネット市場での企業間の関係構築を目指し、オープンソースの機械学習システム「TensorFlow(テンサーフロー)」を同国の研究者やハイテク企業などに幅広く売り込もうとしている。一方、親会社の米アルファベットはAI投資先候補の発掘に向け、新規採用を進めている。

 グーグルが2010年に中国市場から撤退するまで中国部門を率いていた李開復氏は「中国はあらゆる企業にとって極めて大きなチャンスだ。ネット市場への参加者数は世界で最も多く、得られるデータは特にAI関連製品の向上に役立つ」と説明する。

 関与手段見つからず

 しかし、中国に進出しても成功が約束されているわけではない。国内のネットや海外の一部ウェブサイトを制限するネット検閲システム「グレイトファイアーウォール」や法規制、技術に対応する海外サーバーや技術的な対処法がなければ、中国のソフトウエア開発会社はグーグルのクラウドを活用したAIツールにアクセスできないからだ。

 グーグルはまた、音声認識スピーカーや自動運転車などの開発に欠かせないAIの開発をめぐり、中国の検索大手、百度(バイドゥ)をはじめ、中国企業との厳しい競争に直面することになる。

 それでもグーグルは中国市場への復帰に意欲的だ。政府の検閲をめぐり10年に中国本土の検索事業などのサービスから撤退後、同社は再進出の道を模索してきたものの、まだ成果はない。中国はグーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」搭載スマートフォンの最大の市場に成長したにもかかわらず、グーグルのサービスは提供されていない。

 グーグルのピチャイ最高経営責任者(CEO)は最近のインタビューで、「中国への関与を拡大する。その手段については慎重に検討するが、答えはまだ見つかっていない」とコメントしていた。

 開発者獲得を重視

 新商品発表会のときの華々しさとは対照的に、グーグルの直近の中国戦略は開発者獲得を重視する草の根的な取り組みだ。米国に拠点を置くエンジニアらは北京と上海で過去数カ月以内に開かれたテンサーフローの開発者イベントで、説明会を少なくとも3回にわたり実施した。このうち2つは招待制で、参加者は録音や撮影、セッションについてのブログ投稿をしないよう求められたという。グーグルはイベントについて、テンサーフローのユーザーである世界各地の開発者をサポートするもので、中国に限定した取り組みではないと説明している。

 中国でのAI強化の取り組みは「AI第一主義」を掲げるピチャイCEOの主義主張にも合致する。15年から無償提供を始めたテンサーフローはこの中核に位置する。

 同社のクラウドサービス部門は今年、テンサーフローに対応する新たな半導体チップのアクセス権の貸し出しを始めた。

 中国のAI開発環境は世界でもトップクラスにある。AIを国家の最優先項目に掲げる中国はテンサーフローの開発コミュニティーの拡大ではアジア有数の成長スピードを誇る。同市場においてクラウドサービスの利用が制限されているグーグルは後れを取っている。多くの中国の競合企業は既にAIの機械学習システムを導入し、金融サービス情報の更新や混雑の中での顔認証、ドローンの操縦などに活用している。

 10月24日に上海のテンサーフローのイベントに出席した中国人開発者は「中国本土にサーバー設置をグーグルのクラウド部門が認められたとしても、アリババグループなどの地場企業が既に安価なクラウドコンピューティング製品を提供しており、利益を生み出すのは難しい」と予想。一方で、「グーグルが中国に一層のテンサーフローの技術と製品をもたらすことを開発業者は待ち望んでいる。グーグルのクラウドソリューションは素晴らしい。同社のツールも大変使い勝手が良い」と歓迎した。香港科技大学の楊強教授はテンサーフローの人気の理由について、「単純に中国人利用者は最良で人気の高い商品を買うため」と説明する。

 関心の高まりに合わせてグーグルは雇用を拡大しており、このほど中国の複数の大都市でAI関連の求人広告を出した。

 競合のバイドゥ先行

 グーグルの中国進出は再び失敗に終わる可能性もある。今年中国で実施されたグーグルのイベントに対する中国政府の反応も好材料とは言い難い。アルファベット傘下のAI部門「ディープマインド」が開発した囲碁ソフトで中国人棋士を破ったことが政府高官の感情を害し、AIシェア争いに向けた国家主導の動きを加速させた。

 しかし、これにひるむグーグルではない。関係者によれば、テンサーフローを中国のハイテク大手にも普及させる目的で、同社はアリババやテンセント(騰訊)にも売り込みをかけているという。

 自社および外部のサーバーを経由したテンサーフローのダウンロード回数はこれまで790万回を超えた。中国で仕事をすることが多い投資家のリッキー・ウォン氏はテンサーフローの最初の5000件のダウンロードについて、シリコンバレーよりも北京からのアクセスが多かったことを突き止めた。

 早い段階での中国のテンサーフローに対する関心はグーグルの同国での事業展開に有利に働くとみられるものの、既にライバルのバイドゥは自社開発したAIソフトウエア「パドルパドル」を昨年から導入している。関係者によれば、開発業者間でのバイドゥのソフトの普及率はグーグルのテンサーフローを上回った。中国のAI研究者の中には、バイドゥの成功は中国製品に対する忠誠心と海外のソフトに対する依存への警戒心が影響したと見る向きもある。米ロチェスター大学コンピューター学科のジエボ・ルオ教授は「開発業者はテンサーフローを試用してみるかもしれない。だが実際に製品化を検討する際には自社で開発したソフトを使うだろう」との見解を示した。(ブルームバーグ Mark Bergen、David Ramli)

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