難問山積。そこで、白川総裁は諦観の人だった。「資金が足りないならどんどん供給するので、そういう資金需要があれば持ち込んでほしい」と、デフレ経済を他人事のように描写した。
日銀の政策が効きにくい資本市場の構造問題を是正するため、「こうすべきだ」という建設的提言を発しなかった。将来の金利水準に対する期待を操作する時間軸政策は日銀が欧米の先輩格なのに、いざ現実に訴えかける際に必要となるコミュニケーション力に欠けていたのだ。
最後まで学者だった白川総裁は、高まる一方の金融政策のデモクラタイゼーション(民主化)圧力に現実対応できなかった。中銀総裁が退任するニュースで株価を3%も上げた国なんて聞いたことがない。悲しい幕引きである。(ニューヨーク 松浦肇)