それでも反原発団体は九電本社前でデモを繰り広げ、一部メディアは「九電社員は高給取り」と容赦ないバッシングを浴びせる。
言うまでもないことだが、九電が原発事故を起こしたわけではない。「九州の人々のために日々働いている俺たちが、なぜこれほど批判されなければならないのか」。九電ではそんな怨嗟の声が渦巻いている。
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昭和26年の創業以来初めて「冬の賞与見送り」を飲んだ九電労組にとっても針のムシロの日々が続く。
九電労組幹部は九州各地の職場巡回を続けているが、組合員は冷ややか。「いつまでボーナスゼロが続くのか?」「来夏は絶対にボーナスゼロを回避してほしい」「原発再稼働のスケジュールを会社側はどう考えているのか」-と詰め寄られることもしばしばだという。
労組幹部は「最大限の努力はします」とひたすら頭を下げるが、実際の労使交渉は難航を極めた。
「ボーナスゼロじゃあ組合員の士気にかかわる。たとえ少額でも出せないか」
夏の賞与をめぐる労使交渉が佳境に入った4月。九電本社(福岡市中央区)の一室で、九電労組副執行委員長の田中賢一は、九電の労務担当に食い下がった。
「少なくとも賞与という形では無理だ。値上げ直後ということもあり、世間の理解が得られない」
押し問答は続き、平時なら3~4日で終了する労使交渉は、日曜も含め十数回に及んだ。2時間の予定が大幅に延び、深夜まで続くこともあった。
労組側が恐れたのは、賞与支払いを迫る余りに、会社側が人員削減に手をつけることだった。