【京都発 元気印】有次 伝統の手作り包丁、世界的ブランドに

2014.3.13 05:00

寺久保進一郎社長

寺久保進一郎社長【拡大】

  • 有次「錦店」。「京の台所」と称される錦市場にある同店では、購買客の20%は外国人が占めるという。2階では「包丁の研ぎ方教室」なども開かれている=京都市中京区
  • 料理人の“命”「刺身包丁」。料理の通のため、鋭い切れ味と使いやすさが信条だ

 伝統的技法や原材料を継承して作られる京都の伝統工芸品「京もの指定工芸品」の京刃物。その包丁分野で代表的ブランドに挙げられるのが「有次(ありつぐ)」だ。創業時の刀鍛冶から伝統の技を受け継いで450年余、現18代当主の寺久保進一朗社長が「一本一本に職人の技と心根を込めている」と自負する手作り包丁は、国内のみならず広く海外でも愛用されている。

 ◆創業は刀鍛冶

 同社は戦国時代の1560年に、現在の本社所在地に創業した。江戸時代の1637年に京都市内中央域を地図で表した「洛中絵図」、1685年発行の京都観光案内書「京羽二重(はぶたえ)」のいずれにも、同地に居住する「鍛冶所」として「有次」の名が登場するという。

 それが示す通り、創業は刀鍛冶。御用鍛冶、藤原有次として御所への出入りも許された。同社に今も残る「日本鍛冶宗匠家門人 藤原有次 御用鍛冶壹人」という古い鑑札がこれを証明している。

 しかし、江戸時代も泰平になると刀の需要は減り、仏師小刀や料理包丁などの刃物を手掛けるようになる。京都は、都が置かれ人が集まって商売に地の利があった上に、刃物にとって大事な原材料に恵まれていた。出雲地方(島根県)の砂鉄や玉鋼(たまはがね)、さらには砥石(といし)、松炭、良質の水などだ。このため刃物の一大産地として全国に知られた。

 中でも有次の刃物は、刀鍛冶の魂、職人から職人へと伝えられた経験の技、研ぎ澄まされた勘で優れた製品を生み出し「扇子や人形、表具といった京都の工芸品の発展を支える陰の力となった」と寺久保社長は語る。

 さらに明治時代も終わりのころになると、包丁を通じてプロの料理人や一般家庭からの要望で、鍋をはじめとする料理道具も手掛けるようになった。

 取り扱っている製品は、包丁では肉、魚、野菜のいずれにも使える「三徳牛刀」をはじめ「出刃包丁」「ペティナイフ」「薄切包丁」「刺身包丁」の5つを基本に、料理人などからの注文に応じた特殊な製品を含めると約500種に及ぶ。また、料理道具や小物は、銅・真鍮(しんちゅう)・アルミ各種素材の鍋をはじめ、フライパン、おろし金、ジョッキなど形、大きさの違いを合わせると数百種類も扱っている。

 営業拠点は1949年に「京の台所」と呼ばれる錦市場(中京区)のすぐそばに営業所を開設、81年にはこれを錦市場の中に「錦店」として移すとともに、高島屋京都店など百貨店にも4店を出した。

 85年には生産拠点として京都府久御山町に工場を新設した。

 ◆客の2割は外国人

 営業の最前線ともいえる錦店は、国内外からの来客が絶えない。武田昇店長によると「購買客の20%は外国人が占める」という。「アリツグ」の名は今や世界的ブランドともなっているのだ。

 しかし、おごることなく顧客への地道なサービス活動を続ける。錦店では製品の販売だけでなく、「料理」「魚のおろし方」「包丁研ぎ」の3つの教室を開催。料理の教室は祇園の料亭の料理人が、魚のおろし方は錦市場の魚屋の主人が、包丁研ぎは寺久保社長と武田店長がそれぞれ講師を務める。

 「包丁を通して料理文化の一端を担うものとして、まず、地元京料理に親しんでもらうこと、そして包丁の正しい使い方、研ぎの大切さを知ってほしい」(武田店長)。参加申し込みは「魚のおろし方は1年待ち、包丁研ぎは半年待ちの大人気」(武田店長)という盛況ぶりだ。丁寧な仕事でブランドが450年以上続き、一層評価が高まる好循環を生んでいる。(立山篤)

                   ◇

【会社概要】有次

 ▽本社=京都市下京区堺町松原通下ル鍛冶屋町242 ((電)075・351・5800)

 ▽創業=1560年

 ▽設立=1976年2月

 ▽資本金=3000万円

 ▽従業員=33人

 ▽事業内容=包丁、料理道具および小物の製造・販売

                 □ ■ □

 ≪インタビュー≫

 □寺久保進一朗社長

 ■心根込めて和食文化発展に貢献

 --当主に就いて半世紀を超えた

 「先代の父が亡くなってすぐに家業の有次を継いだ。近くの鍛冶屋で修業をしながら定時制高校に通っていた17歳のときで、以来57年になる。有次といえばやはり包丁。職人が作り出す品と、その心根を伝えることで食文化の豊かな楽しみを提供することを信条に、いつの世にも永く愛用してもらえる“一生もの”の手作り包丁を世に送り出すことに徹してきた」

 --後継者も決まっているようだが、託すことは

 「専務を務めている息子(寺久保吉雄氏)を19代当主に決めている。自分は先代を早く亡くし、周りの人の協力はあったものの、決めなければならないものはすべて自分で考え、調べ、決めてきた。技術的なことは別にして、託すことは、こうした自分の“オレ流”の姿を黙ってみていろということだ」

 --伝統を引き継ぐには職人の育成も大事だ

 「有次が海外でも知られるほどの商売をできているのは、職人の作品を大事にしてきたからだと思っている。現在、大阪・堺を中心に数十人の職人に包丁の製作を委託しているが、彼らが生み出す良い作品は人の心を豊かにし、ひいては人の技を引き上げてくれるのだという思いを持ち続けていきたい」

 --心根を込めた包丁づくりはこれからも続く

 「25年前に作ったロゴに、すでにその思いを込めている。創業時の禁裏御用鍛冶としての鑑札を基に、五角形の中に筆太の『有』のマークを入れたもの。有次が作り出す道具には時がたっても変わらぬ職人の熱き思いが込められていること、高い品質を守ることをこのロゴを通して約束している。折しも、和食が世界遺産に登録された。その代表ともいえる京都の食文化の発展に、今後もこの思いを貫き、貢献していきたい」

                   ◇

【プロフィル】寺久保進一朗

 てらくぼ・しんいちろう 京都市立堀川高校定時制中退。先代の父を亡くし17歳で家業を承継、18代当主となる。1976年2月に株式会社に改組し社長就任。自らを「包丁屋」と称し、心根のこもった包丁づくりに取り組む。74歳。京都府出身。

                 □ ■ □

 ≪イチ押し!≫

 ■使いやすさと切れ味抜群の刺し身用

 500種以上にのぼる包丁の中で、家庭でそろえたい“基本3種”は「三徳牛刀」「出刃包丁」「ペティナイフ」。このうち三徳包丁は、「万能包丁」とも呼ばれ、肉、魚、野菜何でも切れ、海外でも「サントク」で通る。出刃包丁は主に魚用、ペティナイフは文字通り小物切りに使われる。

 “基本5種”は、これに「薄切包丁」「刺身包丁」が加わるが、寺久保進一朗社長が「あえて一押しというなら」と挙げるのは、刃の長さ9寸(27センチメートル)の刺し身包丁。柳の葉のように幅が細く先がとがっていることから柳刃包丁とも呼ばれる。「包丁一本晒(さらし)に巻いて~という歌でも連想できるよう、刺し身包丁はプロの料理人にとっての“命”。料理を楽しむお客さんに喜んでもらえるよう、切れ味鋭く、使いやすく仕上げている」という。価格は1本1万9285円(税別)。

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