「世界に勝つものづくり支援」を掲げ、東京都と近隣県の中小企業を技術面で支援している都立産業技術研究センター(東京都江東区)が、2006年に地方独立行政法人化して以降の取り組みを『都産技研の挑戦』(丸善出版発売)として刊行した。出版の背景や中小企業支援の今後について、都産技研の片岡正俊理事長に聞いた。
--今回の出版の意図は
「3年前の東日本大震災では都産技研は東北の被災地企業の支援などもあり、職員が苦労して乗り切った1年だった。そうした事情は伝えきれておらず、独法化以来の新しい取り組みを知ってもらうためにも、中小企業の人に手に取ってもらえる書籍を作ろうと考えた」
--独法化で都産技研が変わってきたことは何か
「職員の意識に役所的なところがなくなり、民間の感覚に近くなってきた。ロボット開発に力を入れているが、研究者はどうしても二足歩行のような実用化にほど遠いものを作りがちだ。私たちは中小企業が使えるような車輪移動型のロボットを開発した。以前は好きなテーマの研究を行う傾向があったが、現在は組織として実用的な研究を評価するようにしている」
--本の副題に「世界に勝つものづくり支援の強化」と掲げている
「中小企業も海外進出を考えねば生き残れない時代。現在は1都10県の機関が連携して海外進出を支援している。まずは『この製品が欧州で売れるか』といった相談に乗ることから始まり、欧州などでの規格に適合するよう試験を実施している」
--最近の中小企業の置かれている状況は
「下請けだけでなく、自前の製品をつくる開発型の中小企業が増えている。日本の中小企業の潜在能力は非常に高い。ただ海外で売れるところまではなかなか届いていない現実がある。世界で戦える中小企業を1社でも増やしていきたい」
--工場の多い東京都大田区でも事業所数が最盛期の半分以下に減っている
「それでも残っている工場は『下町ボブスレー』の開発に象徴されるように潜在能力の高いところが多い。特定部品で高い世界シェアを誇る企業もあり、そうした企業を増やす手伝いをしていきたい。都産技研としても大田区にある城南支所を強化し、航空機事業に参入する企業などの支援に力を入れていく」
--各種の3D(立体)プリンターや超高性能の顕微鏡もあると聞くが
「中小企業が利用しやすいよう、世界最先端の機器も積極的に導入するようにしている。3Dプリンターでは、金型を使わずに精密部品の試作品を安く作れるものや、フルカラーのフィギュア(模型)をつくれるものなどがある。顕微鏡では原子や分子の並んでいる様子まで見られるものもある。9月上旬に予定されている施設公開では、科学や技術に興味のある子供たちにもぜひ、家族で来て実物を見てもらいたい」(溝上健良)
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【プロフィル】片岡正俊
かたおか・まさとし 東大工卒。三菱電機勤務、長岡技術科学大教授を経て、2008年から現職。高知県出身。62歳。