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号令を受け、開発陣のトップだった岡さんが決めたのは、ビールの本場・ドイツへの留学時に出合い、“隠し球”として温めていた「ダイヤモンド麦芽」の採用だった。
生産国がチェコなどに限られるダイヤモンド麦芽は、ビールのコクの源であるタンパク質を豊富に含む。プレモルの持ち味は「コクと香り」だ。リニューアルで、ダイヤモンド麦芽が持つ力強い味わいと華やかなホップの香りを、どうバランスさせるかが、大きな課題となった。
「既存のファンを裏切るわけにはいかない。そして、初めて飲んだ方にも『おいしい』と感じてもらわなければ。新商品を一から作るよりも難しかった」(岡さん)。麦芽を投入するタイミングや量、ホップの選び方など、条件を少しずつ変えながら試行錯誤を繰り返すしかなかったという。
完成までに手がけた試作品は100種類以上。生産の本拠地となった武蔵野ビール工場には、国内ビール4工場の担当者だけでなく、山崎蒸留所(大阪府島本町)のウイスキーブレンダーらも集まる総力戦で、ぎりぎりまで評価を重ねた。
「新プレモル」は、東日本大震災から1年後の12年3月に発売された。家族や友人らとの絆(きずな)が見直されていた時期だからこそ、「大切な人とじっくり味わうビール」という価値観を掲げた。サントリーの関係者は一様に「プレモルが目指したのはリニューアルでなく、リバイタライズ(再活性化)だった」と口をそろえた。プレモルに再び力を吹き込もうとしたのだ。
新プレモルの仕上がりについて、岡さんは「親しい人と語り合いながら飲むうちに、ビールが温かくなることもある。それでも飽きずに飲み続けられる『苦みと香り』のバランスを実現できた」と胸を張る。この年、プレモルの販売量は再び2桁以上伸び、1656万ケースに達した。
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