日本企業の強さの一つに、現場力がある。とりわけものづくり企業にとっては、国際競争力を支えているのは現場である。高級車レクサスのエンジンを生産するトヨタ自動車九州苅田工場では、正規社員を対象に国家資格である技能士1級の合格者を大幅に増やす取り組みを行っている。「現場社員の能力アップが目的。稼働率が下がったのを逆手にとり、本格的に取り組んだ」(トヨタ九州幹部)と話す。
リーマン・ショック後の2009年、苅田工場は2本ある生産ラインのうち第1ラインを休止した。その後、第2ラインだけが稼働し、第1ラインが再開したのは今年7月から。第1ラインが休止していた11年度から現場ぐるみで取り組みをスタート。当時、トヨタグループの工場で正規社員に占める1級取得者の割合が一番高いのは、元町工場(愛知県豊田市)の約30%だった。対する苅田工場は10年度で12%に過ぎなかった。
このため、当初の合言葉は“元町に追いつこう!”だった。結果を先に示すと、初年度の11年度が17%(取得者は累計約90人)、12年度は35%、13年度は57%(同303人)と元町を大きく追い越し「トヨタでナンバーワンになった」(同)。13年度までの取得者は、「機械保全作業」(168人)や「空気圧装置組み立て作業」(53人)、「一般熱処理作業」(11人)、「量産型内燃機関組み立て作業」(8人)など。
技能士試験は筆記と実技からなる。1級は上級技能者の証しであり、試験は難関。苅田工場では終業後、リーダー格の取得者たちが“先生”になって、受験予定者に特別授業を定期的に施す。学科対策で過去問の解説をしたり、実技対策では職種別に指導を行う。