経済成長に水を差しかねない政策に新政権があえて取り組むのは、燃料補助金が政府の財政悪化や国富の流出をもたらす“元凶”となっているからだ。
インドネシアは原油や天然ガス、鉱物などの天然資源に恵まれており、従来は原油や石油製品の輸出で得た財源を補助金に回し、国内では石油製品を安く提供してきた。だが、人口の増加や工業化の進展による発電用需要などで、国内の石油消費量が増大。一方、輸出は油田の生産量低下などにより減少を続け、2004年以降は原油や石油製品の輸入国に転じている。
しかし、ユドヨノ政権は庶民の要望が強い補助金の抜本的な削減には踏み切れず、政府支出は拡大を続けた。09年に始まった2期目には約5倍に膨らんだという。日本政府関係者は、ジョコ氏が新政権の最初の仕事として補助金削減に取り組むのは、「危機意識の表れ」だと指摘する。
進出した日系企業にとってもメリットはある。インフラの整備が公約通り実施されれば渋滞が軽減され、ビジネス環境は大きく改善される。また、補助金が付いた質の悪い燃料が大量に使用される現状が改善されれば深刻な大気汚染も解消できるなど、さまざまな効果がありそうだ。現地では「新大統領の経済感覚には大いに期待している」(オスマン・アリフィン氏)と肯定的な声も出ている。
また、日本貿易振興機構(ジェトロ)の担当者は、「新たな財源が捻出できれば、補助金の本来の目的だった貧困層対策にも使える。教育や医療の質も向上するだろう」と説明する。低所得層から中間所得層への移行が加速すれば、旺盛な内需はさらに拡大する。