本来ならば、ルール違反ということで失格になるところが、代替案があまりにも素晴らしいので、審査員がそれを受け入れることが度々起きたようだ。スペインのコルドバ会議場しかり、シアトル公立図書館、ロサンゼルス郡立美術館、オスロ図書館などである。なぜ彼がそのようなことができるのかといえば、与えられた土地や構造に対して、普通の人間には見えない、もっと大きなフレームワークを見いだすことに価値を置き、そのため相手に説明し説得するのにかかる時間や作業をいとわない高いボルテージを持っているとのこと。
レム・コールハース氏ほどではなくとも、友人の建築家数人に聞くと、土地に根付く過去からの歴史や、見た目の斬新さ、使い勝手、動線などを基に、設計条件もかなり取り払って提案することが多いようだ。その時、唯一求められるのは「クリエイティビティー」かもしれない。
大人のエンジニアとは、初期段階で大胆な企てを行い、なぜそれが良いのかを明らかにして、周囲の人を説得し実現させていく人たちであろう。そのような人たちにとって、前提条件は重要ではあるが、あくまで「仮」の条件に過ぎない。
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【プロフィル】和田憲一郎
わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャー、EVビジネス本部上級エキスパートなどを歴任。13年3月退社。同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーションコンサルティングを設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。福井県出身。58歳。