■「トップを守る」に徹し切る
■次の「志賀」育つまで支える
日産自動車(本社・横浜市)の会議室に、社長のカルロス・ゴーンの怒声が響いた。
「聞いていない。どういうことか説明しろ」
2013年9月中間決算の発表を4日後に控えた昨年10月28日。14年3月期の本業のもうけを示す営業利益予想を「1200億円下方修正しなければならない」との報告に、ゴーンは憤りを抑えきれなかった。
下方修正は、新興国での想定を超える販売不振が原因だ。しかし、掲げた経営目標は必ず達成するというコミットメント(公約)により、ゴーンは今日のルノー・日産連合の成長を果たしてきた。
「誰かが責任を取らなければならない」
最高執行責任者(COO)だった志賀俊之(現副会長)は、その場で辞任を決意した。
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会議後、ゴーンは志賀と2人だけで話し合いの時間を持った。何を語りあったのか、具体的な事柄について志賀は口を閉ざす。ただ、「業務分担の戦略に基づき、実行役を担ってきた。オペレーションの失敗責任は私にある」とだけ打ち明けた。
ゴーンの番頭を8年7カ月にわたって務めた志賀のCOO退任は、そこで決まった。
11月1日夕の緊急会見。ゴーンは、韓国出張を取りやめ、業績修正と役員人事を発表した。だが、壇上のゴーンに対し、報道陣は経営責任を問う厳しい質問を浴びせた。
「経営責任ならば、ゴーン社長も一緒に辞任すべきではないか」
この日発表されたのは、志賀が退任し、COO職を廃止する一方、志賀の業務は西川廣人ら新しい3人の副社長が担うという新体制だ。役員の若返りによる成長を促すのが狙いだとゴーンは強調し、「懲罰人事ではない」と繰り返した。