旭化成が陸上部などを創設し、スポーツ活動に乗りだ出したのは46年。終戦間もない当時の同社は、人心が荒れ、労働争議が絶えなかった。
そこでスポーツを通じて社員の心を一つにまとめ、士気を高めようと考えたのが、創部の動機だった。人間性を重視したり、社員としての処遇にこだわる背景には、そうした創設の経緯が影響しているという。
長期の経済低迷で活動継続が困難になるなか、最近はスポーツに対外的な宣伝効果を求める企業も増えている。だが和田慶宏上席執行役員は「宣伝効果を期待しないわけではないが、選手をCM起用したことは一度もない」という。「それより選手には、一般社員の模範になり、一体感創出に尽くしてほしい」と繰り返し強調する。
実際、彼らが延岡にいる意味は大きい。延岡地区の工場で勤務する社員は「身近な存在である選手たちが活躍すると、より元気づけられる」と話す。
選手は、地元で開催されている陸上の記録会「ゴールデンゲームズinのべおか」に協力するなど、地域活性化にも貢献している。
◆競技成績でもプラス
一方、選手が正社員であることは、競技成績の面でもプラスになっているという。
陸上部員は早朝の6時20分から10キロほど走り、いったん寮に戻った後で、早い組は8時45分に出勤する。その後、4時前に再びグラウンドへ集まり、全体練習をこなす。勤務時間は一般社員よりは短いものの、他社の運動部員に比べると明らかに長い。
勤務時間が長ければ、その分だけ練習に割く時間が減り、競技力を高める上で不利になりかねない。だが87年世界選手権ローマ大会のマラソン代表で、今年陸上部の監督に就任した西政幸氏は「引退後も仕事を続けられるから安心して練習に打ち込める」と高く評価する。