翻って、昨年来、業績不振に陥った歴史ある企業のリストラ計画が発表されている。業績不振に至った原因は多様であるにしても、ゴーイングコンサーンとして、それぞれ培ってきた経営の守るべき型や決まりごとが崩れ、統制の利かない状態に陥ってしまったのが、問題の本質のように思えてならない。そうした企業の再生には、先人たちが培ってきたものを再確認する作業がまず必要となるだろう。
事業の柱は、時代によって変化する社会構造、あるいはグローバルなニーズなどに対応して、技術、ビジネスモデル両面から成立の可否を探っていくことで見えてくる。だが、大事なのは、その企業の社是や設立趣意書などに見られる、シンプルながらも、誰もが納得する普遍性のある言葉に立ち返ることではないか。
黙阿弥狂言の神髄は、日本人が好む七五調のせりふ回しにある。「月も朧(おぼろ)に白魚の 篝(かがり)もかすむ春の空」で始まる『三人吉三巴白浪』の名ぜりふは、今でも日本人の心に響き、記憶に残る。
企業でも経営者自ら言葉を選び発するところから、再生の道は始まるのだと思う。シェークスピア劇の主人公のように、強い意志を持ちながらも葛藤を重ねた上で絞り出される、経営者の言葉を聞きたい。
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【プロフィル】井上洋
いのうえ・ひろし 経団連教育・スポーツ推進本部長 早大卒。1980年経団連事務局入局。総務本部・秘書グループ長、産業第一本部長などを経て、2015年4月から現職。東京五輪・パラリンピック関連業務を担当。文化審議会の臨時委員などの公職も務める。58歳。東京都出身。