□経営共創基盤CEO・冨山和彦
IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)という言葉が昨今、世の中を激しく飛び交っている。しかし、その産業論的な本質が論じられることは少ない。本質とは、このようなイノベーションの波が産業構造をどう変えてしまうかである。
◆産業構造を一変
現在の変革の波は、1980年代のコンピューター・ダウンサイジングの波(デジタル革命第1ステージ)、90年代以降のネットとモバイルの波(第2ステージ)に続く第3ステージ、すなわちデジタル化による破壊的イノベーションの最終章と考えられる。
過去、デジタル革命の破壊的な影響を受けてきたのは、コンピューター産業、続いて通信やAV(音響映像)機器などのコンシューマーエレクトロニクス業界であり、こうした業界ではビジネスモデルが根こそぎ変化し、業界構造も主役企業の顔ぶれも一変した。
産業構造論的には、デジタル化によりハード・ソフトの両面で標準化の波が強烈に襲い掛かる。標準化は水平分業化を促し、モノづくりでは、どこを差別化領域として自ら作り込み、何を標準品やアウトソーシングですませるか、鮮烈な「仕分け」が求められる。
産業のバリューチェーンの中では、いわゆる「スマイルカーブ現象」が起き、川上側で寡占化の勝者となったコンポーネントメーカーや材料メーカーと、川下側で顧客インターフェースを抑えてプラットホーム化したサービスプロバイダーとに利益が集中する。わが国の電機産業に多かった、川上から川下までの垂直統合型で、組立工程を付加価値の源泉とするモノづくり企業のモデルが利益を上げられる領域はどんどん縮小する。その結果、第2ステージで日本のエレクトロニクス産業の多くはほぼ負け組となってしまった。