□グローウィル国際法律事務所代表弁護士・中野秀俊
ソフトウエア・アプリ開発はトラブルの宝庫である。形のないものだけに、ベンダー(売り手)側、ユーザー(買い手)側で、思い描いていたものに違いが生じやすい。例えば開発途中で頓挫すると、どちらの責任かとなる。このようなケースでは、契約書や議事録などの客観的な証拠が重要になるので、トラブルになる前から証拠を残しておくことを心がけたい。
ベンダーは、システムを完成させる義務を負うだけでなく、開発の専門家として問題点を処理し、適宜ユーザーの意見を調整して作業を進行させる「プロジェクト・マネジメント義務」があるとされている。一方、ユーザーも、ベンダーに任せっぱなしではいけない。開発はベンダーとユーザーの共同作業という側面があり、ベンダーの作業に協力する義務があるとされている。つまり両者とも互いの義務を果たしていたかがポイントになる。
そこで有力な証拠になるのは、双方が話し合った「議事録」だ。実際の裁判でも議事録に基づいてプロジェクトの進捗(しんちょく)、課題状況、役割分担の実施状況などの事実が認定されている。紛争前から双方の義務履行状況が分かるように議事録をつけることが重要だ。
またベンダーが納品したにもかかわらず、ユーザーが報酬を支払わないトラブルも多い。通常のソフトウエア・アプリ開発契約書では納品後、ユーザーの検査に合格した場合、ベンダーに報酬請求権が生じると規定されることが多い。そこでベンダーが「契約で約束したシステムは完成している」と主張するのに対し、ユーザーは「約束したものができていない。不具合が多数ある」などと主張し、支払いが滞る。