【高論卓説】NY発ビール、キリンの救世主となるか ものづくり戦略に挑むクラフト事業 (2/2ページ)

 そもそも、クラフトビールのプロジェクトは、2011年9月にキリンのマーケティング現場から内発的に始まる。12年末、メンバーたちは渡米してブルックリンを訪問している。今年1月には、キリンの北米マーケティング担当者が、ブルックリンに“飛び込み”で訪問。両社の距離は一気に縮まった。

 キリンは既に、国内クラフト最大手のヤッホーブルーイング(本社は長野県軽井沢町)と資本提携している。キリンビールの布施孝之社長は「国内外の提携により、多様で奥行きが深いクラフトビールを盛り上げていく。ブルックリンとは、日本向け商品の共同開発にも踏み切りたい」と話す。ブルックリンの醸造責任者は米クラフトビール界のカリスマとして知られるギャレット・オリバー氏。キリンはスプリングバレーで年間40を超える新製品を開発している。

 日本のビール類市場は、縮小に歯止めがかからない。一方世界では、10月にアンハイザー・ブッシュ・インベブによるSABミラー買収が成立。世界シェア27%の超巨大ビールメーカーが発足した。

 キリンのクラフトビール事業は、10年に及ぶ長期的な戦略の一つであり、人々のライフスタイルを変えることを目指している。世界8位のキリンが生き残るためには、従来のような単品を大量生産するだけでは難しい。装置産業とは一線を画し、他社とのコラボをキーワードとする新しいものづくりへの挑戦でもある。

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【プロフィル】永井隆

 ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は「サントリー対キリン」「人事と出世の方程式」など多数。58歳。群馬県出身。