テレビのワイドショー風にいえば、先週1週間で最も注目を集めた人物だろうか。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長である。
月曜日に来日すると、天皇、皇后両陛下訪問など数多くの予定をこなし、土曜日未明に帰国するまで、報道陣がその後を追い回した。
◆IOCの威光
その間、あれほど2020年東京オリンピック・パラリンピックのボート、カヌー競技会場の宮城移転に執着していたはずの小池百合子東京都知事の口調が変わった。都と組織委員会、国にIOCが加わる4者会談の設置も決まった。東京都は「海の森水上競技場」などの整備費用を見直し、最大390億円ものコスト削減を明言した。これまでの聞く耳をもたない態度が、嘘のようである。
野球・ソフトボールの一部試合を東日本大震災被災地で実施する方向も定まった。IOCの威光といってもいいだろう。
絶妙のタイミングでの訪日だった。混迷打開へ、誰かIOCに声をかけたのだろう-。そう話す人もいるが、それは違う。
文部科学省が主催した国際会議「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」(19~22日)での基調講演が決まっており、予定を合わせて会談、講演などが組まれた。都の見直しとタイミングが一致したことは、ある意味、僥倖(ぎょうこう)だったといえる。
ところで、このフォーラムはダボス会議を主催する世界経済フォーラムと連携、スポーツと文化、経済の枠組みを越えて世界、とりわけアジアとの関係を深める意図があった。文科省肝煎り、京都と東京を会場に約60カ国からさまざまな分野の識者が集った。意見をビジネスに発展させる試みは“スポーツ版ダボス会議”とも称された。