ある財界人は、この孫社長の行動を高く評価する。「ビジネスになるとなれば、さまざまなコネクションを駆使して、面談を取り付ける。その徹底した動き方は尊敬に値する」と称賛。また、IT業界の経営トップは「トランプ氏、プーチン氏の双方に短期間で面談している人物は世界でもそういない」と驚く。
しかし、今回の孫社長の行動でメンツをつぶされたのは経団連だ。事務局の多くは、ごった返す会場でのさまざまな対応などで、孫社長が会場に来ていることも知らない上、プーチン大統領と立ち話をした事実も把握していなかった。
テレビのニュースでも日露ビジネス対話で、経団連の榊原定征会長、プーチン大統領、安倍首相らがあいさつしている会場内の映像などが使われることは少なく、孫社長とプーチン大統領の会話が、あたかもプーチン大統領を迎えての日本の経済界の動きとして、放映された形だった。
ある経団連事務局の幹部は、「さすがに会場が経団連会館、経団連が中心になって開催している会合で、プーチン大統領と話すのなら、ひと言、経団連に断りを入れるべきだった。マナー違反だ」と憤りを隠せない。
経団連と孫社長には遺恨もある。孫社長が前回、経団連の会合に出席したのは平成23年11月。定例理事会の席で、直前に経団連がまとめたエネルギー政策の提言を批判したときだ。提言では原子力発電所の早期再稼働を要請したが、孫社長は「安全・安心の検証がなされていないうちに再稼働を求めるのは遺憾」と訴えた。意見は通らず、その後は、会合に出席せず、経団連とは距離を置く格好になっていた。
ただ、孫社長とプーチン大統領の立ち話をセッティングしたのは経済産業省との情報もあり、経団連としては怒りのやり場を持っていけないままとなっている。(経済本部 平尾孝)