通りを埋めるバイクの大群は、新興国ベトナムを象徴する風景だ。バイクを持つ世帯の比率は全体の9割近くに上る。都市部ではバイクの販売市場が飽和状態に達したとされるが、バイクが圧倒的な存在感を占めるベトナムの交通事情は簡単には変わらないと関係者は予測する。
「四輪車を買えるなら買いたいが、都市部で乗る分にはバイクの方が便利かな。渋滞を心配する必要がないから」(ハノイの男性会社員)
ベトナム国家交通安全委員会によると、国内のバイク総登録台数は3月時点で約4770万台。人口約9400万のベトナムでおよそ2人に1台の計算だ。四輪車の国内登録台数は310万台で、バイクの10分の1以下にとどまる。
バイクが四輪車を圧倒する主因は価格だ。自動車業界に詳しいジャーナリストによると、ベトナムのバイクの平均的な新車価格は2500万ドン(約13万円)前後だが、四輪車では3億ドンほどに跳ね上がる。
自動車業界では1人当たりの国内総生産(GDP)が3000ドル(約34万円)を上回ると、その国で四輪車が急速に普及し始めるとされる。ベトナムの2015年の1人当たりGDPは約2100ドル。多くの国民にとって四輪車は“高根の花”だ。さらに「大都市では、道路など交通インフラの整備が人口の急増に追い付いていない。渋滞や駐車場の心配が少ないバイクの方が四輪車より利便性が高い」とジャーナリストは指摘した。