筆記具大手のパイロットコーポレーションで、日本の伝統工芸として知られる「蒔絵(まきえ)」を施した万年筆を製作している。
1000年以上の歴史を誇る蒔絵は、器の表面に漆で絵を描く。その上に金、銀の粉をまいて美しく飾り付け、万年筆の表面を彩る。
まず、デザインを考える。「水中を泳ぐ金魚や草花など昔ながらの絵が基本で、ホッキョクグマといった動物を描くこともある」
デザインを決めたら、丸い金属の棒に漆を塗る。乾かしてから表面を平らにして何種類もの細い筆で絵を描く。その後で金、銀の粉をまいて、絵の中の水の流れなどを表現する。「手の加減一つで絵が決まるので慎重にまく」。最後に再び漆を全体に塗り、磨いて絵を浮かび上がらせると完成する。
多いときは、100以上の工程を繰り返す。「漆を乾かす期間も入れると、完成するまでに3カ月以上かかることがある」
海外で生まれた万年筆に、日本の伝統的な工芸が使われるのは珍しい。外国人にも人気があり、欧州などに輸出もされている。「漆は、手に持ったときも馴染みやすく使いやすい。日本の文化を世界の人たちに知ってほしい」
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【プロフィル】千田正樹
ちだ・せいき 大学で漆工芸を学び、1993年パイロットコーポレーション入社。休日は自然観察や美術館に出かけ、絵柄を考える。46歳。秋田県出身。