東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の売却交渉が難航している。官民ファンドの産業革新機構が主導する「日米韓連合」が優先交渉先に決まったが、その一角の韓国半導体大手SKハイニックスが当初計画を覆して議決権を要求し、技術流出の懸念が強まったためだ。こんな重要事項がなぜ、優先交渉先を選ぶ前に表面化しなかったのか。主に考えられるのは3点。(1)SKが本音を隠していた(2)SKから資金供給を受ける米投資ファンドのベインキャピタルが連合側に伝えていなかった(3)連合に参画する日本のファンドや東芝はこうした動きを察知していたが、当分先の話なので契約段階で議決権を取得しなければOKと目をつぶった-。日本側の一部関係者はSKへの不信感を募らせるが、誰も真相を語ろうとせず、謎は深まるばかりだ。
「出資」ではなく、「融資」が前提
日米韓連合は経済産業省の主導で結成された。優先交渉入りした6月23日時点で、革新機構と日本政策投資銀行が議決権の計66.6%を握り、ベインキャピタルが33.4%を持つ枠組みだった。東芝と競合するSKの名前は出資企業の中になく、ベインに融資する形で参画するため、東芝の綱川智社長は「SKには議決権がなく、技術流出は防げる」と強調していた。
さらに、各国の独占禁止法の審査の長期化を防ぐ狙いもあった。スマートフォンなどに使われる記憶媒体「フラッシュメモリー」の分野で東芝は、世界2位の市場シェアを握る。首位は韓国のサムスン電子だ。SKも上位5社に食い込んでおり、仮にSKが東芝メモリの議決権を持ち、経営への関与を強めれば、「韓国に半導体が集中することをよしとしない中国の独禁法審査が厳しくなる」(関係者)との声もある。