もう少し簡単なたとえ話をしてみる。家庭的な「肉じゃが」を流用してカレーにするのが部品共用。一方、プロの手による最高の「ホワイトソース」を作っておくのがコモンアーキテクチャーだ。このホワイトソースがあれば、シチューでもクリームコロッケでもグラタンでも、どれもおいしくできあがる。肉じゃがは、それだけでも食べられるし、カレーに流用すれば2度おいしいわけだが、当然最初からカレーに最適化して作られたものに及ばないし、流用範囲も限られている。
クルマの設計生産においてこの「ホワイトソース」に当たるものをどれだけ見つけ出し、それを最良の仕上げに持って行くか。ここが腕の見せ所で、緻密な計算がはまれば、性能向上と価格低減を両立できる。さらに継続してホワイトソースを研究して進化させ続ければ、シチューも、クリームコロッケもグラタンも全部がさらに進歩する。
「どれも同じ」には理由があった
話は変わる。アクセラ、アテンザ、デミオ、CX-3、CX-5、ロードスターといった、マツダの新世代商品群(2012年2月以降発売の商品。記事冒頭の写真参照)を貫くデザインを見て、あなたはどう思うだろうか。「どれも同じ」に見えるか、「統一感がある」と思うか。
「どれも同じでつまらない」と言う意見はよく目にするが、それをマツダのデザイン部門トップの前田育男常務にぶつけてみると、ここにもコモンアーキテクチャーの思想が色濃く表れていたのである。
デザインにおけるコモンアーキテクチャーには、工学レイアウトと造形という2つの面がある。日本ではデザインというとモノの形を格好良くする話だと思われがちだが、インダストリアルデザインにおけるデザインとはそこに求められる機能を十全に盛り込んで使いやすくすることまでが含まれる。単純な話、どんなに格好良くても、人が乗れないクルマには意味がない。