そこで最近注目されているのがベンチャー企業の「走出去」だ。とりわけ情報通信技術(ICT)分野のベンチャー企業が目立ち、格安スマホの生産・販売を手掛ける小米科技(シャオミ)はインドやシンガポール、マレーシアなどアジア地域を中心に展開してきたが、最近は日本や米国にも進出しようとしている。スマホ画像編集アプリ大手の「Meitu(メイトゥ、美図)」は東南アジアで多くのユーザーを獲得し、今は欧州に目を向ける。モバイクのように先進国から攻勢をかけたケースと違い、これらのベンチャー企業は市場の潜在性が高い新興国から、既に成熟している先進国へシフトする戦略をとる。
また、海外留学や観光、移住といった中国人の「走出去」の増加が現地市場開拓につながるパターンも出ている。アリババ・グループ傘下の「●蟻金服(アント・フィナンシャル)」はその典型的な例だ。同社が運営する電子決済サービスの「支付宝(アリペイ)」は、中国人観光客を相手に世界各地でサービスを提供してきたが、最近は現地ユーザー向けのサービスも始めるなど勢力拡大を図る。
ベンチャー企業の「走出去」は中国発のビジネスモデル創出、さらには中国のソフトパワー発揮への期待を高めている。だがこれらのベンチャー企業が真のグローバル企業に成長するためには、現地のニーズをしっかり把握できるか、さらに現地市場における信頼性を得られるかといった多くの試練が待ち受けている。
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【プロフィル】趙★琳
チョウ・イーリン 富士通総研経済研究所上級研究員。2008年東工大院社会理工学研究科修了、博士(学術)。早大商学学術院総合研究所を経て、12年から現職。麗澤大オープンカレッジ講師なども兼任。38歳。中国・遼寧省出身。
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