【高論卓説】伝統技術、生き残りの術 京都の桶工房、高級工芸品への挑戦 (2/2ページ)

 そして今、中川木工芸ではさらに次の挑戦を行っている。それは通常の桶では考えられなかったデザインの領域である。丸ではなく、ひしゃげた葉っぱのような形や、とんがった形、そんな桶の可能性を追求するような従来とは異なるユニークなデザインは、世界が度肝を抜かれた。パリで行われた展示会である意味、その工芸としての芸術性が評価されたことがきっかけだという。ドン・ペリニヨンがワインクーラーとして公式に認定するという評価も得た。

 京都のブランドを背負っての高級な工芸品に進化させたことで生き残ってきた京桶工房。そして、その技術をデザインとのコラボレーションで新たな領域に高めたことで、海外からの注目も集めるようになった。

 伝統技術の生き残りの術とは、安易に効率を求めるのではなく、その技術本来の本質を見据え、その価値を認めてくれる市場や顧客を切り開き、その満足を得ることに他ならない。そんな伝統技術の挑戦は、まさに今問われているイノベーションが成功する道へのヒントである。

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【プロフィル】吉田就彦

 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。60歳。富山県出身。