日本企業が苦戦する“売り方” 「安いレクサス」を誰も欲しがらない理由 (2/5ページ)

 とはいえこれは、マーケティング上の大きなパラダイム・チェンジでもある。20世紀の後半に成長を遂げた日本企業の多くは、コスト・パフォーマンスのよさを顧客に訴求することの成功体験はあっても、価格の高さを正当化するノウハウの蓄積には乏しい。どのようにこの未体験のマーケティングに挑めばよいのか。

 加護野氏は3つのアプローチを提示する。第1は、不特定多数ではなく絞り込んだ顧客にフォーカスするアプローチであり、第2は、主製品の使用に必要となる消耗品を専用化するアプローチである。ラグジュアリー・ブランドの構築は、そのなかで加護野氏が挙げている第3のアプローチである。

 ラグジュアリー・ブランドとは何か

 ラグジュアリー・ブランドとは何か。単純に高価格=ラグジュアリーとはいえない。高価だが、ステイタス感は希薄だったり、夢をつむぐ力には乏しかったりするブランドもあるからである。何がラグジュアリーかは、顧客が決めることであって、一義的な定義は存在しないという見解もある。

 フランスのビジネスクールで教授をつとめるJ. N.カプフェレ氏は、V. バスティアン氏との共著のなかで、ラグジュアリー・ブランドのひとつの条件は、絶対的な崇拝の対象としての地位を確立していることだと述べる(『ラグジュアリー戦略』東洋経済新報社)。客観的に比較できるスペック上の優位性から生まれるのは、一般的なブランドの高級ライン(プレミアム・ブランド)であって、それだけではラグジュアリーとはいえない。ラグジュアリー・ブランドにとって必要なのは、比較を超越した、独自の個性への絶対的な敬意や情念の生成なのである。

 ラグジュアリー・ブランドには、同じ製品やサービスであっても、一般的なマーケティングとは異なるブランディングが必要となる(図参照)。そこでの問題は、効率追求型のビジネスで成功をおさめてきた企業が、新たにラグジュアリー・ブランドの構築に挑もうとすると、同一の組織に従来とは異なる動きを求めることになり、混乱や不徹底が生じることである。

全く異なる「ネスカフェ」と「ネスプレッソ」