日本企業が苦戦する“売り方” 「安いレクサス」を誰も欲しがらない理由 (5/5ページ)

 トヨタとレクサスという2つのブランドでは、仕事の進め方や感覚、あるいは優先順位が異なる。レクサスのようなラグジュアリー・カーの広報では、スペックの優位性だけではなく、歴史や哲学など、ブランドが有する物語の発信が大切となる。その設計にあたっては車体の軽量化よりも、乗り心地や質感が優先されることもあるという。顧客は、必ずしも価格の安さを求めているわけではなく、より高価な車に購買意欲を示したりする。さらにレクサスは完全受注生産であり、購入後の引き渡しまでには2カ月ほどが必要になる。お買い得感や、短納期などを訴求する営業は通用しない。

 ラグジュアリー・カーを販売しようとすれば、購買する顧客の層も、営業のアプローチも一般的な車とは大きく異なる。日本市場でのレクサスの販売を、トヨタは従前の系列店とは別の新しい店舗ではじめた。その後のレクサスの事業は、さらに独立性を強めていく。

 2013年にはレクサスインターナショナルという、トヨタ社内のバーチャルカンパニー的な部門が設立され、技術開発、デザイン、広報などの各部門に分散していたレクサス担当が、ひとつの組織に集約されることになった。国内外でレクサスの販売が拡大するなかで、ディーラーから「まったく異なる顧客に販売する車なのだから、つくるのも別の人であってほしい」という声が高まってきたのだという。そのなかでレクサス・ブランドのステップアップに必要な取り組みとして、レクサス部門の独立性を高める判断がなされた。

 コスト・パフォーマンスの追求とは異なる、新たなマーケティングが求められるラグジュアリー・ブランド。扱う商材は同じであっても、意志決定の基準や仕事の進め方は異なる。ラグジュアリー領域に乗り出すには、製品や生産の技術のベースは同じでも、マーケティングにおいては別の舟に乗り換えていくことが必要となる。

 栗木契(くりき・けい)

 神戸大学大学院経営学研究科教授

 1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

 (神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契)(PRESIDENT Online)