【論風】起業家の密度とエコシステム形成 大学ベンチャー、広域性生かせ (2/2ページ)

 このようにベンチャーの創業や成長は平均的に起きる現象ではなく、臨界密度を超えるといっぺんに活性化するという類のものである。ベンチャー企業自身の能力だけでなく、周辺の他のベンチャー企業数や活発さが自社の創業や成長性にも影響する。いわゆる「外部性」が働く世界なのである。

 地域を越えた波及効果

 実はこのような描像は、平等を必要以上に重んじる日本の社会にとっては、しばしば都合の悪いものと感じられるらしい。そのような論者は、一部のみが活性化するのは適切でなく、全国平均的にベンチャーが生まれるような施策を行うべきだという主張になる。上記の「外部性」のメカニズムを理解すれば、全国で平均的にベンチャーが生まれてくるということはあり得ず、どこかに集中投資することに意義があるのは自明である。

 しかし大学発ベンチャーの母体である大学が、政府からの資金、すなわち全国民の税金を得て運営していることから、ベンチャーの議論であっても全国一律の成果を求める傾向がある。米国でもベンチャー投資資金の半分はシリコンバレーに集中している。しかしシリコンバレーの役割をよく観察すると、全米のローカルベンチャーを育成する場にもなっている。

 同様にベンチャー育成における地域間の連携も芽生えており、東京の大学発ベンチャーが地域の大学と連携したり、地方に事業所を構える企業も出始めている。学会などを介して研究者や学生は、大学の枠を越えて多面的につながっており、その結果として、大学は実は全国に広がるネットワークを有している。学術面のつながりは、ベンチャーに関しても地域を越えた波及効果を生むのである。

 閉塞(へいそく)感のある日本の経済を活性化するカギとなる大学発ベンチャーを、広域のネットワーク効果を最大限生かして発展させていくことが重要である。

【プロフィル】渡部俊也

 わたなべ・としや 1992年東工大博士課程修了(工学博士)。民間企業を経て96年東京大学先端科学技術研究センター客員教授、99年同教授、2012年12月から現職。工学系研究科技術経営戦略学専攻教授兼担。57歳。東京都出身。