【知恵の経営】村おこしが生んだ沖縄土産 アタックス研究員・坂本洋介

 今回は和洋菓子製造・販売と喫茶店・レストラン経営を手掛ける御菓子御殿(沖縄県読谷村)を取り上げる。11月16、17の両日、法政大学大学院の坂本光司教授が中心となって開いている「神田経営者クラブ」「静岡県中小企業経営革新フォーラム21」「福井県中小企業経営革新フォーラム」の3つの異業種交流団体の合同例会を沖縄で行った際、同社の澤岻(たくし)カズ子会長から話を聞いた。

 菓子製造販売をスタートしたのは1979年。経営していたレストランの一角でドーナツ、チョコレートケーキ、アップルパイを作って販売したところ、焼き立ての菓子が人気を集めた。86年に本社を構えた読谷村で「特産品の紅いもを使って村おこしをしよう」という取り組みが始まり、読谷村商工会から「紅いもで菓子が作れないか」と相談を受けた。当時紅いもを使った菓子はなく、紫色は食に合わないと言われていた。ならばと、あえて紫色を生かした商品作りに挑戦していった。

 しかし、原料の紅いもをペースト状にしてタルトを作り、百貨店などに持っていくと「とても食べ物の色ではない。合成着色料を使っているの?」と厳しい反応が返ってきた。

 そこで素材そのものの味を生かし、作りたてのおいしさが感じられるものにこだわった。紅いもをはじめマンゴー、シークヮーサー、パイン、黒糖、アセロラなど沖縄の素材を生かした安心で安全なおいしい菓子だ。特に紅いもタルトは、少なくとも翌日までに完売できるようにおおよその販売予想を立て、売れる分だけ作ることを基本とした。こうしたこだわりでようやく紅いもタルトは完成した。

 たちまち沖縄の新しい土産として認知されていったが、一方で類似商品も数多く作られた。澤岻氏は商標登録をしなかったため、商品名と形状がほとんど変わらない商品が複数出回った。しかも、類似品の中には商品名・形状を似せて、合成保存料を使って日持ちをさせた商品も多く、せっかく地域ブランドとして定着しつつある中で、イメージが悪くなるのではと、頭を悩ませた。

 そんな中で、95年から5年間「沖縄の菓子を沖縄発のすべての飛行機に乗せよう」ということになった。機内で配られる菓子に御菓子御殿の紅いもタルトや沖縄の素材で作った菓子が採用され、紅いもタルトは、お墨付きを受けて沖縄の代表的な土産として地位を確立させることができた。

 今や沖縄の代表的な土産品となった紅いもタルト。同社が、村おこしから始めた商品作りではあったが、結果として、米国からの輸入菓子が大半だった沖縄に、地元の原料を使った菓子と菓子文化を生み、定着させたことは間違いない。

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【会社概要】アタックスグループ

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