【日本発!起業家の挑戦】なぜ事業転換は難しいのか

DeNAの共同創業者でエンゼル投資家として活躍する川田尚吾氏
DeNAの共同創業者でエンゼル投資家として活躍する川田尚吾氏【拡大】

 □DeNA共同創業者・川田尚吾氏に聞く

 日本の大手企業はディスラプト(破壊的変革)の影響をとりわけ受けやすい。また、国内のスタートアップは他国に比べてピボット(事業転換)に悪戦苦闘している。2つの問題は発生源が同じとみられる。今回のコラムではDeNAの共同創業者でエンゼル投資家として活躍する川田尚吾氏との対談を通じ、その根を掘り起こしてみたい。

 川田氏はDeNAの初期のピボットについて、また上場後に直面した課題について語ってくれた。

 ◆勝者が市場を総取り

 --多くの人はDeNAをゲーム会社として知っていますが、創業時からそうだったわけではありませんね

 「全く違います。DeNAは1999年にPCで利用するEコマース(電子商取引)の会社として設立されました。最初の事業はネットオークションのビッダーズです」

 --もともと、ヤフーオークション(現ヤフオク!)やイーベイと競合する計画だったのでしょうか

 「創業時は、ヤフーオークションもイーベイも日本にありませんでした。私たちは国内で全く新しいサービスを始めようとしていたんです。しかし、DeNAの設立後すぐ、ヤフーが日本向けのヤフーオークションを開始してマーケティングを強化し、ヤフーのトラフィックが新しいオークションサイトに流れ込みました。その後すぐにサービスを開始したビッダーズも堅調に伸びてはいましたが、毎月ヤフーに引き離されていくようでした」

 --なぜネットオークション市場でより大きなシェアを取りに行くのではなく、ゲーム事業にかじを切ったのでしょう

 「オークションのような消費者市場では、勝者が市場を総取りします。いくつか主要ブランドがあって競い合っている、その他多くの市場とは違うんですね。オークションの世界では、各市場に主要プレーヤーは1社しか残らない。それが私たちではないことが明らかになってきたので、方向転換を迫られました。最初のピボットはゲーム事業ではなく、携帯電話向けのオークション事業でした」

 --何年のことですか

 「2003年に計画し、04年にサービスを開始しました。もちろんスマートフォン以前の時代で、みんなiモードを使っていたときです。この頃、パケット定額制も普及し始めました。私たちが携帯電話で利用できる新しいC2C(消費者間取引)市場のモバオクをつくると多くのユーザーが集まりました」

 --スマホが登場したとき、DeNAがそのリードを保てなかった理由は何だと思いますか。ノウハウもユーザーベースもあったのに、新しいプラットホームではメルカリが首位に立ちました

 「DeNAがガラケーからスマホに移行するのに苦しんだ理由は、ヤフーやイーベイのプラットホームがモバイルへ移行するのに苦しんだのと同じ理由だと思います。企業が1つの製品から多くの収益を上げるようになると、その収益性に疑問を投げかけたり変えようとしたりするものに積極的に投資しようとしません」

 --大企業でよく起こることですね。マイクロソフトは最初のクラウド・コンピューティングの波に乗り損ない、インテルはモバイルPC向けCPUへの移行が遅くて置いていかれました。しかし、当時のDeNAの規模はそれよりずっと小さく、経営幹部はその数年前にピボットを成功させたのと同じ人が務めていましたよね。そんな状況でも、なぜピボットが難しかったのでしょうか

 「人間の特性ではないでしょうか。事業で利益がどんどん出ているときに、中核事業をリスクにさらしたくないと思ってしまうのです。将来起こり得る可能性としてリスクを話し合うのは簡単ですが、今稼ぐのを少しやめて新しいことをしてと言われると決断が大変難しくなります」

 --ゲームのモバイル端末への移行でも同じ現象が起こりました。任天堂やセガといった家庭用ゲーム機で成功した企業がウェブとモバイル端末では苦しみ、一方で新しく参入したDeNAは成功しました。しかし、わずか数年後にスマホが爆発的に普及すると、ゲーム配信会社の役割があまり重要でなくなり、アップルストアを通じた売り上げの重要性が増しました。そのとき、DeNAを含め既存の携帯電話向けゲーム会社は、いずれも素早くスマホ市場に移行することができませんでした

 「そうですね。どんな企業にとっても一筋縄ではいかない難しい課題です。投資家の視点、あるいは企業の最上層部の視点に立って言えば、プラットホームが移行していっても市場はまだ結構安定しているように見えるのです。家庭用ゲーム機の市場は、ネットゲームが生まれてから何年も安定していました。日本でスマホが普及し始めてもiモードを上回るまでには数年かかりました。誕生したての頃の新しいプラットホームは、経営上それほど大きな脅威には見えないものなのです」

 --解決策は? 大企業が破壊的イノベーションから身を守るすべはありますか

 「どうでしょう。この問題はビジネスの構造に組み込まれているようなところがあります。スタートアップには既存の事業がありませんから、リスクを取らなければ何も始まりません。実際、スタートアップにとっては本当のリスクでさえありません。新しいことをやってみなければ、潰れてしまうんですから。一方、大企業は中核事業の成功を脅かすリスクは取りたくない。そうなると、事業が依って立つプラットホーム自体が変わってしまう危険とは常に付き合っていくしかありません。今、スマホ上のサービスで最も成功している企業が、3年後にVR(仮想現実)やAR(拡張現実)のスタートアップに負け始める可能性だってあるんです。そこまで先を見通せる方法はありません」

 --では、新しいスタートアップに賭けるのが得策ですか

 「投資家として言えば、そう思います。技術的なプラットホームが変化している最中には、大抵の場合、スタートアップが大企業よりも革新的になれるでしょう。このとき、スタートアップが最も注意を払わなければいけない競合企業は大企業ではなく、他のスタートアップです」

 ◆重要なエンゼル投資

 --最近は、自分で事業を築くよりも他の会社に投資することが多いですね。従来、日本のエンゼル投資家は銀行家か弁護士か医師でしたが、それが変わりつつあります。エンゼル投資が日本のスタートアップを変えると思いますか

 「それはもう、必ず。私はDeNAの経営の一線から退き、08年から投資していますが、当時はエンゼル投資家の数はすごく少なかったですね。最近は、スタートアップの創業者として成功した人がエンゼル投資家になるケースが増えてきました。私を含め、これらの投資家は資金を提供するだけでなく、個人的な起業体験に基づくサポートを提供します。スタートアップが市場に積極的に挑戦し、成功を収めるのに役立ちます。もちろん資金が流れ込むことが重要ですが、今、日本のスタートアップ界が求めているのはそういった面でのサポートだと思います」

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 企業が一度事業に成功してしまうと、新しいプラットホームに適応してピボットすることが難しいのはなぜか。この問いに対する川田氏の説明は、直観的に理解しやすいものだ。企業が既にある大きな収益をほうり出して、新しい小さな収益を追い求めることはできないというわけだ。

 もちろん、多くの場合この決断は正しい。新しい技術や新しいプラットホームの大半は、いくら出だしが好調でも、主要なプレーヤーをしのぐほどの規模にまで成長することはないからだ。しかし、あなたが一体どの業界で働いているにしても、いつかは技術的に全く新しいプラットホームや事業モデルの変革が生まれ、あなたの中核事業を脅かすときが来る。それは、避けられない未来だ。

 文:ティム・ロメロ

 訳:堀まどか

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【プロフィル】ティム・ロメロ

 米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/