【職人のこころ】付きまとう技術、芸術、呪術 民俗情報工学研究家・井戸理恵子


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 人は厳しい風土を生き抜くため、生活を楽にするため、身近な材料を駆使して、ものづくりをしてきた。

 「職人」とはその風土の中で、その土地の、家の、自らの役割として、特殊な技術を身につけた者。特に伝統技術を担う職人は長い年月にわたって、風土ごとに異なる技を培うネットワークの中で「技術力」を鍛えている。

 職人の技術力には「技術」「芸術」「呪術」が付きまとう。「技術」とはまさに職人の知恵と身体能力により培われる技。また、職人にとっての「芸術」とは自然を読み解き、時代を捉える力。適材適所に必要とされる材料、道具、人を見いだすことを可能とする。そして「呪術」とは、ものに役割や名前を与える力。例えば、これは「茶碗(ちゃわん)である」と職人が言えば、その器は「茶碗」という役割と名前が与えられる。

 これらの「術」は生き抜く力そのものであり、過去から未来へのよりよい「生活」の受け渡しである。

 伝統の中で培い、疑うことなく続けてきた職人の術としての技には、ある日突然、その生業を続けないではいられない、カタとしての「ワザ」が降ってくることがある。これを「童」と捉える。里を立て、生かすもの。「童」にはまさに「ワザ」とルビが振られることがある。

 童子とは単なる子供ではなく「ワザをもつ者」。ワザが降りてくることを「神に魅せられた」と捉える。

 同じことを繰り返し行っていると、「できない」ということができなくなる。美しいものづくりをしていると、美しくないものが作れなくなる。「ワザ」が降ってきた者はまさに「職人」となる。そういう気がする。そして、さまざまな職人と呼ばれる人たちとの付き合いの中で気づいたことがある。それは「技術」とは「知恵」そのものであり、「知恵」とは「こころ」そのものであるということ。「こころ」の深い人ほど、よき知恵を持ち、その知恵で生活をより楽にするためのさまざまな技術を構築する。

 新しき年の始めに、日本という国を日本という国たらしめてきた伝統技術をつかさどる職人に焦点を絞り、「こころ深きよき知恵」を祖先から子孫へと伝えてきた先人の心に触れてもらいたい。

 次回からはこうした職人の心、技、材料、道具、ネットワークなどについて伝えていく。

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【プロフィル】井戸理恵子

 いど・りえこ 民俗情報工学研究家。1964年北海道生まれ。国学院大卒。多摩美術大非常勤講師。ニッポン放送『魔法のラジオ』企画・監修ほか、永平寺機関紙『傘松』連載中。15年以上にわたり、職人と古い技術を訪ねて歩く「職人出逢い旅」を実施中。