【高論卓説】定義変更で新ビール誕生 味わい多彩に、需要創出は提案力が鍵 (2/2ページ)

 キリンビールはクラフトビールとして4月に新商品を投入する計画だ。「原料の幅が広がることで、お客さまに驚きや楽しさを提供できる。クラフトビール市場のチャンスも広がる」(布施孝之社長)。サッポロビールは「育成できるタイミングで発売する」(高島英也社長)。また、クラフトビール大手でキリンに生産の一部を委託しているヤッホーブルーイングは、かつお節を使った「SORRY UMAMI IPA」を4月をめどに発売する。

 今回は、大掛かりな商戦ではなく、提案力が試される戦いだ。

 実は、沖縄のオリオンビールを除く大手4社の17年のビール類出荷量は、大台の4億ケースをわずかに割り込んだとみられる(前年比2.4%減の3億9968万ケース)。4億ケースに達しなかったのは1986年以来32年ぶり(当時は販売量)。翌87年3月、当時は業界3位だったアサヒが発売した「スーパードライ」が大ヒット。86年と最盛期となる94年を比較すると、ビール類市場は5割も拡大する。だが、そのスーパードライも昨年、89年以来29年ぶりに国内販売が1億ケースを割った。ドライは傘下の欧州ビール会社で19年頃から現地生産され、国産初のグローバルブランドを目指していく。

 酒税が統一される2026年、日本では人口の半数を53歳以上が占める。市場の成熟化に伴い、“ドライ戦争”のようなシェアをめぐる熾烈(しれつ)な競争は影を潜めていくだろう。お金から知恵へ。長期的で生活者に寄り添う価値の提案力が求められていくのは、他の国内産業にも当てはまる。

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【プロフィル】永井隆

 ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は『アサヒビール 30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など多数。59歳。群馬県出身。