【論風】経済の頭打ち傾向鮮明に “日本力”で付加価値生産性を

 □地球産業文化研究所顧問・福川伸次

 日本経済は、今後どのような成長の道を歩むのであろうか。国際通貨基金(IMF)は、世界経済を2017年3.6%、18年3.7%、そして19年3.7%の成長と見るが、日本のそれは、それぞれ1.5%、0.7%、0.8%の低水準で推移するという。当面、個人消費も、設備投資も盛り上がりを欠き、長期的には企業の革新力が停滞するとみているのであろう。

 ◆1人当たりGDPを上げるには

 日本では人口が50年に1億を割り、9708万人になると予想される。もはや国内総生産(GDP)で測る量的な拡大は望めない。そうなると、日本としては、経済社会の質の高さでその存在感を示すしか選択の道はない。

 それを示す定量的な指標としては、1人当たりのGDPということになる。日本は、GDP全体では米国、中国に次いで3位に位置しているが、1人当たりのGDP(14年)でみると、3万6222ドルで、国際ランキングの27位と低位にある。1位は、ルクセンブルクの11万9488ドルで、以下ノルウェー、カタール、スイスと続くが、大規模国家では米国が11位、カナダが15位、ドイツが17位、英国19位、フランス20位と、日本より上位を占める。

 日本がこれを改善するには、人口減少を超えてグローバリゼーション展開とイノベーションの加速を通じて付加価値生産性を高める必要がある。日本には、伝統的に信頼、秩序、勤勉、協調、寛容などの価値観が流れている。私は、これを「日本力」と呼んでいるが、これをその2つに結びつけることである。グローバリゼーションを展開するには、国際的に相互信頼を保ち、異文化への寛容性を保ち、そして協調性を高めることが必須である。最近揺らぎつつある国際情勢を見ると、こうした日本の価値観が国際社会に欠けているように見える。

 イノベーションの展開では、人工知能(AI)やビッグデータなどの情報通信技術の革新が必須である。ロボット、自動運転、再生医療、生化学、新エネルギーなどフロンティアは広い。日本社会が持つ「匠」の技に象徴される精巧さ、異分野研究の協調、新しいアイデアへの寛容性などはイノベーションを促進する有力な手段である。質の高い経済社会の構成要素として、もう一つ、人間価値の高揚を挙げたいと思う。健康、美、文化、福祉、秩序、自然などがそれである。日本ではこうした価値を尊重する伝統がある。

 日本は少子化、高齢化で世界のトップを走っているが、健康寿命でも第1位を占めている。その延伸を図ることは人類共通の願いであろう。電子情報技術を駆使して健康を管理し、食文化を充実して健康を保ち、適度の運動によって体調管理し、これらを通じて長寿を全うできれば、人類にとって福音である。高度の医療や介護のサービスが享受できればさらに幸福である。

 ◆観光・文化・技術に期待

 訪日観光客が急増し、18年には3000万人にも達する勢いである。観光産業は今や日本における重要な付加価値産業の一つになっている。海外からの観光客の間では日本の街並みが清潔、安全で、礼儀正しいという評価が広がっている。日本の自然の美しさにも定評がある。同時に、世界中の最高級の文化、芸術のイベントが鑑賞でき、内外の最高の食事が楽しめると評価されている。まさに人間価値の充足である。

 加えて、技術と文化の融合も重要となる。日本は、本来、伝統的に優れた技術や文化を持ちつつ、海外からも積極的に取り入れ、融合発展させてきた。高度の技術は新たな文化表現を可能にし、高度の文化は新しい技術を求める。今や、技術と文化は相互に関連発展し合う関係にある。内外の若者の間で日本のアニメなどのポップアートが人気を集めている。そればかりか、電子関連技術が各種の芸術表現を高度多様なものにしている。私は、日本力こそが今年の経済社会の成長を導く原動力だと期待している。

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【プロフィル】福川伸次

 ふくかわ・しんじ 東大法卒、1955年通商産業省(現経済産業省)入省。86年通産事務次官。88年退官後、神戸製鋼所副社長、副会長、電通総研社長兼研究所長を経て、2005年から機械産業記念事業財団会長、12年4月から現職。85歳。東京都出身。