ヤマハ初の女性開発チーフが語る「バイク愛」 “二輪大国”東南アジアでの光景に喜び (3/3ページ)

 エンジニアを巻き込み、商品に愛を注いでいく

 とりわけ「GDR155」ではスマートキーやストップ&スタートシステムなど、電装部品で新しい技術が採用されている。開発が進められる中で、彼女はイラスト段階でのデザインを見せたり、試作車の実物に触る機会を積極的につくったりして、メンバーであるエンジニア一人一人にとってそのモデルが特別なものになるよう工夫を重ねた。

 「開発車両に頻繁に触れ、普段は交流のない開発メンバーに会ってもらう。モデルと接する機会が多ければ多いほど、愛着が出てくるものですから」

 商品の開発は次々に生じる課題を、限られた時間内に解決していくことの連続だ。困難な状況を乗り越えねばならないとき、「モデルへの愛着」はみなが1つの方向へ力を合わせる雰囲気をつくり出すはず--そんな思いがあった。

 「そうして開発を続けてきて、1番うれしい瞬間は、やっぱり市場に出たバイクにお客さまが乗っている姿を見るときですね」

 上田さんがプロジェクトチーフを務めてきた商品は、ベトナムやタイ、インドネシア向けだ。日本の公道で目にする機会はないが、現地に出張した際、ときおり街で走っている姿を見かける。そのたびに、何とも言えないうれしさが胸にこみ上げてくる。

 「今後もプロジェクトチーフとして新しいバイクを開発していきたいです。そのうえで大事にしたいのは、『ぶれない軸を持つ』ということ。新しい技術や考え方に対して、拒絶せずに勉強し、理解したうえで判断する姿勢だと思っています。時代や技術、開発のプロセスがどう変化していっても、『あいつに任せておけば安心だ』と言われるような技術者になりたいですね」

(PRESIDENT Onlineより)

(PRESIDENT Onlineより)

 (ノンフィクション作家・ノンフィクションライター 稲泉 連 撮影=市来朋久)(PRESIDENT Online)